ヤマト「ネコポス」廃止、日本郵便に移管の切実 クール宅急便や郵便ポストの活用でも協業へ

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ヤマトはヤフーやアマゾンなどネット通販を軸に勢力を広げ、ネコポスは2020年度の2億9331万個から2021年度には3億8494万個、2022年度は4億1337万個まで、毎年個数を伸ばしている。

ところが攻勢に出る中でも、現場のオペレーションは苦しい面があった。ヤマトの自社戦力は2トン、4トントラックが中心だ。宅急便は得意でも、単価が安い小型の荷物を多く投函するには、委託に頼らざるを得ない。投函の商品は仕分けなども宅急便とは別の仕組みになっていた。

日本郵便は全国でバイクを約8万2000台、軽車両も3万台配備するなど小回りが利く態勢だ。ヤマトの長尾社長はこう明かす。「正直に申し上げて、ポストに投函をするビジネスの精度の高さや作業の安定性は、一生懸命に真似してもなかなかたどり着けない領域だと常々感じていた」。

配送能力の懸念もあった。「キャパシティには上限がある。現場の営業では、繁忙期にこれ以上仕事を取ったら運べないかもしれないと思う方もいる。一緒にやることで上限が広がり、悩まずに営業できることは大事」(ヤマトの鹿妻明弘・専務執行役員)

今後、ヤマトは日本郵便に委託料を支払う形になる。外注費を中心に、全体のコスト削減を進められるかが焦点だ。日本郵便は収益増を見込む。クロネコDM便の売上高は500億円超、ネコポスは800億円弱で、一部を受託料として受け取る。互いにプラスの取引にできるか、金額面の交渉も重要ポイントだ。

佐川急便との協業はどうなる?

ここで気になるのは佐川急便との関係だ。日本郵便は2021年に佐川急便と協業を発表している。2004年頃からメール便で提携してきたが、協業をさらに広げる狙いがあった。

「飛脚ゆうメール便」「飛脚ゆうパケット便」など、佐川急便も日本郵便の配達網を活用したサービスを提供する(記者撮影)

小型荷物の「飛脚ゆうパケット便」は佐川急便が集荷し、日本郵便の配送網で届けるサービスだ。クール宅配便の取り扱いや、幹線輸送についても共同運行するなどで連携を強めている。その中身を見ると、今回のヤマトの協業と重複する部分が多い。

日本郵便の衣川社長は佐川急便との関係について「提携関係を深めており、そちらはそちらでしっかりやっていく」と述べるにとどめた。ヤマトから「大口案件」を受注すれば物量は大幅に増える。協力会社の確保など対応も必要だ。佐川急便と従来の協力関係を維持できるかは日本郵便の課題となる。

物流網の維持に向け、物流企業が協力するのは珍しい時代ではない。だが、宅配大手の本格的な協業は、大手も一段の効率化が必要なことを再認識させるものだった。業界の2024年問題まで残り1年を切った。今後も効率化に向けて、ライバル同士の提携、協力も進みそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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