「家」に立脚した宗教は多死社会でも出番なし 生き残るには「個人の時代」への適応が不可欠

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コロナ禍では通夜を省く「一日葬」や、火葬場に直行する「直葬」が選択肢に挙がるようになった。

公益財団法人全日本仏教会と大和証券による「仏教に関する実態把握調査(2022年度)報告書」によると、「ご自身の葬儀はどのように執り行いたいですか?」という問いに対し、「一日葬」を選んだ人は20.1%。「直葬」の中で、「僧侶を呼ぶ」と回答したのは4.1%、「僧侶呼ばない」は20.9%に及んだ。

現代人にとり、僧侶の話を聞く機会の大半は葬儀と法要。通夜が省かれることは、僧侶が仏教の教えを説く法話の機会が減ることを意味する。直葬となれば僧侶に出る幕はほとんどない。コロナは仏教の伝道機会を著しく減らす格好となった。

とはいえ、人々の寺離れはコロナに始まったわけではない。寺の収入基盤である檀家制度はコロナ前から崩壊寸前にあった。

檀家制度と密接不可分な家制度

ひと昔前まで多くの日本人には、葬儀や法事の際に経をあげてもらう菩提寺があった。菩提寺には一族の先祖が眠る「家墓」があり、そうした檀家からの布施収入や法要収入が菩提寺の収益基盤だった。

一方で、檀家制度には家父長的な家制度が密接に関係している。家督を継ぐ長男が墓守りを担い、家を次世代へと継承した。こうして先祖代々の家や墓を維持してきたわけだが、産業構造の変化や都会への人口流出で、過疎化が進む地方を中心に檀家制度の維持が難しくなっている。

近年見られるのは、都会に出た息子や娘が故郷に残していた墓を撤去する「墓じまい」だ。2000年度に6万6643件だった墓じまいは2020年度、11万7772件に増加している。

長男を中心とした檀家制度には、女性たちの不満もある。

葬儀社でデジタル広告を制作した経験のある40代女性によると、70~80代の女性たちは「子育ての時、夫はいっさい手伝ってくれなかった」「嫁として姑に小突かれている時、夫は自分をまったく守ってくれなかった」という恨み節をよく吐露したという。こうした不満を抱えた女性たちは家や墓の継承を前提としない「樹木葬」や「海洋散骨」を選び取ることが多いという。

40代の女性自身も「親族の葬儀の際には必ず女たちが給仕を強いられた」と悔しい記憶を振り返り、「檀家制度は男中心のシステム。女たちの不満は大きい」と語る。

夫の死後、「死後離婚」をするために姻族関係終了届を役所に提出する件数は2010年に2427件だったところ、2017年には6042件に急増した。その後は4344件(2019年)、3595件(2021年)と下降局面に入るも「夫の一族と同じ墓には入りたくない」「夫の親の介護までしたくない」という女性の本音は根強い。

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