「ウイグル問題」を日本企業が無視できない理由 アメリカの輸入規制強化は何を意味するのか

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いったんWROが発出されても、これが会社の取り組みみにより撤回されるケースも存在する。例えば、今年の4月28日、CBPは、2021年11月にマレーシアのゴム手袋メーカーが製造現場で強制労働を行っているとして同社が製造した使い捨て手袋に対してWROを発出していたが、同社が労働環境の改善や人材派遣費の返済を行うなどした結果、強制労働の状況が改善されたとして、同社に対して発出したWROを撤回すると公表した。

ただ、このケースでもWROの撤回までに1年半近くかかっていることからすれば、いったんWROが発出されると、その撤回には相当の時間とコストがかかることが想定され、これは企業にとって大きな負担となりうる。

さらに強力な「ウイグル強制労働防止法」

そして、近時さらなる脅威となっているのがウイグル強制労働防止法(UFLPA)である。同法は2021年12月にバイデン大統領の署名により成立しており、2022年6月から同法に基づく輸入禁止措置が施行されている。

UFLPAは、新疆ウイグル自治区で全部、または一部が生産された製品について強制労働により生産された製品であると推定し、輸入者である企業が強制労働により製造されたものでないことを「明確かつ説得力のある証拠」により立証した場合に限って輸入が認められるとしている。これは、企業側に強制労働を利用していないことの立証責任が課せられている点で、企業にとっての負担が重く厳しい規制となっている。

また、CBPが2023年2月に公表したガイダンスでは、輸入者が適法性を立証するために提出すべき資料として、原材料の支払いや、輸送に関する文書(請求書、契約書、発注書等原材料の支払い・輸送に関する商取引が発生したことを示す記録など)、輸入品とその構成品の原産国を証明する取引およびサプライチェーンの文書(梱包明細書、船荷証券など)が広範に挙げられている。

同法に基づく差し止めが行われた際には、このような多岐にわたる情報・資料の提出が必要となり、日本企業が輸出業者となる場合には、輸入者から当該情報・資料の提出を求められる可能性が高い。

CBPの公表によれば、2021年10月~2022年9月において、CBPは強制労働の疑いにより、8億1650万ドル相当(計3605件)の輸入を差し止め、そのうち約5億ドル相当の1592件(件数ベースで約44%)の輸入はUFLPAに基づく差し止めであったとのことであり、同法に基づいて相当数の差し止めがすでに執行されていることがわかる。

なお、差し止められた後、最終的に輸入が認められた製品も一定割合で存在する。CBPの公表によれば、UFLPAが施行された2022年6月21日から2023年3月3日までの期間に、全体で3237件の輸入がCBPによる差し止めの対象になった後、424件が輸入を禁止され、1090件は税関の通過が認められたことが分かる。

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