中国の支援で近代化、知られざるセルビアの鉄道 国際情勢に翻弄されるが風光明媚な路線多い

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次は南に注目してみよう。先ほどの1981年時刻表を見ると、南部の主要都市ニシュを通るルートの他にコソボ自治州を通るルートも主要幹線として描かれている。実際、ドイツ・ミュンヘンとギリシャ・アテネを結ぶ国際列車「アクロポリス」はコソボ自治州経由であった。

しかし、現在は優等列車どころか、セルビア本国とコソボを結ぶ直通列車は存在しない。先述したように、コソボが独立したものの、セルビアが国家承認していないからだ。コソボの鉄道は国際安全保障部隊の運営を経て2005年からコソボ鉄道が運営する。

セルビアとコソボは対立関係にあるが、両国とも2021年9月にベオグラードで開催された「第1回西バルカン鉄道サミット」に参加した。このサミットにはセルビア、コソボの他にアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モンテネグロ、北マケドニアの各国の交通大臣が出席した。サミットではバルカン諸国とEU間を結ぶ直通列車の再整備、国境通過をスムーズに実施するためのデジタル技術の促進などが決められた。また資金面についてはEU、欧州復興開発銀行、欧州投資銀行が西バルカン諸国の鉄道近代化に協力することを発表している。

コソボ鉄道は欧州復興開発銀行やEUの支援を受け、2022年にフシェ・コソヴァ―ミトロヴィツァ間にて近代化工事を開始した。この区間は先述したセルビア―コソボ―北マケドニア間の主要ルートであり、近代化工事により最高時速100kmを目指す。日本人の目から見ると「最高時速100km」は遅く感じるかもしれない。しかし、コソボ鉄道もセルビア鉄道と同じく状態が悪く、時速30~70kmに抑えられている。まずは近代化工事によりスタンダードを目指すという感じだ。

どんどん進むセルビア鉄道の近代化

最後に残りのセルビア鉄道の近代化工事計画を紹介したい。現在、中国やEUなどの援助を受け、ベオグラード―ニシュ間においても近代化工事が進められている。この区間もベオグラード―ブダペスト間と同様に、アジアとヨーロッパを結ぶ重要な路線である。完成後の最高時速は時速200キロとなる。同区間の所要時間は現行の4時間40分から1時間20分に短縮される。また、これとは別に約200kmの鉄道路線の近代化も行われる。

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このようにセルビアの鉄道は周辺諸国と足並みをそろえる形で、国際列車が通過する幹線を中心に近代化が進められている。完成の暁には旧ユーゴ時代のように、EU諸国から多数の国際列車が乗り入れることだろう。

本記事では触れなかったが、セルビアには風光明媚な狭軌路線を小型蒸気機関車が走る観光列車「シャルガンエイト鉄道」もある。ぜひ周辺諸国と合わせてセルビアの鉄道旅行を楽しんでほしい。

新田 浩之 フリーライター

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にった ひろし / Hiroshi Nitta

1987年兵庫県神戸市生まれ。2013年神戸大学大学院国際文化学研究科修了。関西の鉄道をはじめ、中欧・東欧・ロシアの鉄道旅行、歴史について執筆。2018年にチェコ政府観光局公認の「チェコ親善アンバサダー2018」に就任。

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