中国の支援で近代化、知られざるセルビアの鉄道 国際情勢に翻弄されるが風光明媚な路線多い

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セルビアの鉄道の第一印象はとにかく遅いことだった。なまじっか平原が続き、停車駅が少ない分、時速40kmほどのノロノロ運転はせっかちな人には耐えられないだろう。

当時の時刻表を見ると、第二都市ノヴィ・サドーベオグラード間(約80km)に約1時間30分も要していた。さらに筆者が乗車した際は10分以上の遅延が発生していた。実は旧ユーゴ時代の1981年の時刻表と比較すると約20分も遅く、セルビアの鉄道は進化どころか「退化」していたのだ。

また筆者が降り立った旧ベオグラード中央駅は19世紀末に開設された伝統あるターミナル駅だった。

閉鎖された旧ベオグラード中央駅(筆者撮影)

「伝統あるターミナル駅」といえば聞こえはいいが、実際のところ駅構内は薄暗く、社会主義時代を想起させるものだった。旧ベオグラード中央駅は2018年6月に閉鎖。現在は2016年に開業した新ベオグラード中央駅に移行した。

長年にわたるセルビア鉄道の退化の主な要因は1990年代のユーゴ紛争である。セルビアは1999年にNATOの空爆に遭い、多くの鉄道施設が破壊された。これを契機に鉄道の進化がストップしたのである。

中国の支援を受け、鉄道近代化に着手

2010年代に入り、セルビア鉄道は中国からのサポートを得て、本格的な鉄道近代化に着手した。最初に近代化路線に指定されたのが首都ベオグラードとハンガリーのブダペストを結ぶ路線である。中国にとってベオグラードーブダペスト線は本国と欧州を結ぶ最重要路線のひとつだ。

2022年3月、ベオグラード―ノヴィ・サド間の近代化工事が完了した。同区間には「はやぶさ」を意味するスイス・シュタッドラー社製の新型車両「ソコ」を投入した。営業最高時速200kmを誇る。白地の塗装も相まってセルビアの鉄道車両のイメージを一新した。

「ソコ」導入後、ベオグラード―ノヴィ・サド間の所要時間は36分に。2015年と比較すると、約1時間の短縮となった。列車本数は1日上下各15本、約1時間間隔で運行されている。

一連の鉄道近代化はインパクトが大きく、今年3月にはノヴィ・サド駅にて在セルビア中国大使を招待し、鉄道近代化1周年の式典を開催した。現在は2025年の全面完了を目指し、残りの区間の鉄道近代化工事に邁進している。

このようにセルビアはほかのヨーロッパ諸国と比較すると中国からの支援が目立つ。一方、加盟を目指すEUからの支援も受けている。2月には欧州委員会、欧州投資銀行、欧州復興開発銀行とセルビア政府は共同でオーストリアからバルカン半島を経てギリシャに至る「鉄道回廊10号線」の近代化に向けた20億ユーロの財政パッケージの創設を発表した。外交政策でもセルビアは中国、EUと友好関係を維持している。なかなか、したたかな国と言えそうだ。

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