リニアどうなる?JR東海と静岡市が「トップ交代」 元副知事の新市長「川勝知事の懐刀」敵か味方か
合同インタビューからおよそ1週間後の12日、丹羽社長は金子会長とともに県庁に川勝知事を訪ねた。面談はおよそ30分間行われ、面談後に丹羽社長と川勝知事はそれぞれ個別に報道陣の取材に応じた。丹羽社長は「静岡は非常に大切であり、リニアについては双方向のコミュニケーションを取ってご懸念を解消したいと伝えた」と説明した。
また、丹羽社長は愛知県出身だが、母親の実家が静岡県にあり、里帰り出産のため実際は静岡県生まれであることや、JR東海入社後も静岡支社で2年間勤務したことがあるといったエピソードを川勝知事に披露し、「静岡が個人的に大好き」と伝えたという。「川勝知事と良い関係を作りたい」として、膠着した状況の打開に意欲を見せた。
別途囲み取材に応じた川勝知事は丹羽社長の印象を問われ、「大変人柄の良い方。いい感じで話が進んだ」と話した。金子会長に対しても「2022年11月に2人でリニアに試乗したのは大変いい思い出だった」と話したという。
今回の面談は和やかなムードで終わったようだが、それは目下の懸案である田代ダムの取水抑制やJR東海が山梨県内で進めているボーリング調査といった具体的な話題が出なかったからだ。次回のトップ会談ははたしてどのような局面で行われることになるだろうか。
静岡市長に元副知事の難波氏就任
リニアの静岡工区をめぐっては、もう1人、キーパーソンの交代があった。川勝知事の下で中央新幹線対策本部長を務めていた難波喬司・元副知事が4月9日の静岡市長選で勝利し、新たな市長に就任したのだ。静岡市の人口は約68万人で、全国に20市ある政令指定都市の1つ。政令指定都市は都道府県とは離れた独自の施策を実施することも可能で、その権限は大きい。その市長に難波氏が就いた。
難波氏は大学院で土木工学を学び、国土交通省では技術総括審議官を務めた技術の専門家。静岡県のリニア行政における川勝知事の懐刀ともいえる存在だった。
当然ながら、副知事時代の難波氏の考えは県の政策と同じだったが、「大井川の水は1滴たりとも他県に渡さない」という理念先行の川勝知事に対して、難波氏の発言はもう少し現実的。厳しい発言はするものの、それは頭ごなしに否定するというよりも、まず最悪のリスクを把握してから最善の方策を考えようという考えに裏打ちされているように思われた。少なくとも言葉の端々から局面を良い方向に向かわせようという意欲が感じられた。たとえば、2020年5月に行った難波氏へのインタビューでは、「水問題を解決する腹案はある」と答えていた。
また、2020年10月2日に難波氏が都内で行った講演の後の質疑応答では、県がJR東海に求めている湧水の全量戻しについて、記者の「本当に1滴も他県に渡してはいけないのか。この程度なら他県に流れてもOKという許容範囲はないのか」という質問に対して、「最終的にはそういう話(許容範囲)はありうる」と話し、落とし所があることを示唆した。
もっとも、その直後、川勝知事は「JR東海に全量戻しは守っていただく」として、難波氏の発言を全否定した。難波氏の面目は丸つぶれとなった。
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