パナソニック、AI全盛期の今「2歳児ロボ」作る意味 「パナらしさ」抜け出し、便利機能はあえて削除

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このアイデアを社内のロボット研究者に披露すると、「『典型的なダメなロボット』といわんばかりの厳しい反応が返ってきた」(増田氏)。頭を抱える増田氏らに、その研究者はある人物を紹介してくれた。豊橋技術科学大学の岡田美智男教授だ。

岡田教授は、人間とロボットのコミュニケーションのあり方について長年研究してきた。その中で提唱してきたのが、「弱いロボット」という概念だ。これが、のちのニコボの基盤を作ることになる。

豊橋技術科学大の岡田美智男教授が開発した「Muu」
岡田教授が初めて開発した「弱いロボット」である「Muu」。生物としての可愛らしさを体現するデザインだ(記者撮影)

一般的にロボットやAIは、人間に役に立つタスクを自律的かつ完全に実行することが評価され、技術的な未熟さは「欠点」と見なされる。

一方、弱いロボットは自らの弱さをさらけ出し、一人では何もできないが、人間の介入を促すことで最終的にはタスクを達成してしまう。その結果、手を貸した側の人間とロボットの間に連帯感が生まれ、人間にとっての「Well-being(ウェルビーイング)」を向上させることにつながる、というのが岡田教授の考えだ。

岡田教授が開発した弱いロボットの一例が、「ゴミ箱ロボット」。自分でゴミを拾い集めることはできないものの、センサーでゴミを検知すると人に寄ってきて身体を傾けるので、人は自然とゴミを捨てたくなる。「Muu(む~)」は、3体のロボット同士が言葉足らずな会話をすることで、人間がつい口を差し挟みたくなる余地を生み、人間とロボットのコミュニケーションを促すロボットだ。

利便性が人間の傲慢さを引き出した

こうしたロボットが社会に必要だと考える理由について、岡田教授は次のように語る。

「従来、人間と道具は弱いところを補い、強いところを引き出し合うことで機能してきた。それが現代では高機能化を追い求めて機械の自律化を目指した結果、"何かをするロボット"と"してもらう人間"との間に距離が生まれてしまった。距離が生まれると共感性が失われ、人間は機械に対して要求水準を高め、傲慢になってしまう」

弱さをさらけ出し、他者からの支えを必要とするロボットの存在は、人間の強みや優しさを引き出すことにつながる、というわけだ。

この弱いロボットの概念に深く共感したパナソニックの増田氏らは、岡田教授に共同開発を提案した。2018年のことだ。

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