パナソニック、AI全盛期の今「2歳児ロボ」作る意味 「パナらしさ」抜け出し、便利機能はあえて削除
機能性の高さではなく、心の豊かさという価値を提案する新規事業を立ち上げられないかーー。
発端は2017年、パナソニックの家電事業傘下でテレビとオーディオ製品などのデジタル家電を手がける事業部から5名ほどの社員が集まり、検討を始めたことにある。
プロジェクトリーダーを務めるのが、パナソニック エンターテインメント&コミュニケーションの増田陽一郎氏。本籍は、テレビやオーディオの商品企画部だ。
従来、パナソニックのデジタル家電は機能性を追求してきたが、安価な中韓メーカーの台頭で苦戦を強いられてきた。新規事業を立ち上げるからには、これまでのパナソニックの常識を破ろう。そう考えた増田氏が試みたのが、「アウトサイド・イン」という発想法だ。
「パナソニックの通常のものづくりは、『この技術に強みがあるから、あの製品を作ろう』といったインサイド・アウトの発想で行うことが多い。今回の新規事業はその逆で、お客様の課題を起点に企画してみようという話になった」(増田氏)
出来上がった中途半端なロボット
議論する中で出てきたのが、現代社会が抱える2つの課題だ。1つ目が「孤独社会」。核家族化の進展や生涯未婚率の上昇などで単身世帯の割合は上昇している。「1人の部屋に帰宅した瞬間の寂しさを解消したい」「日常的な話し相手がほしい」という潜在的なニーズは高い。
2つ目が「不寛容社会」。デジタル化の進展などで生活の利便性は上がった反面、人々の心の余白がなくなっているように感じられた。非対面でのコミュニケーションが普及したコロナ禍を経て、その傾向はいっそう顕著になっている。
この2つの課題を解決する製品として、コミュニケーションロボットを作る、という解にたどり着いた。社内には、ロボットの目に使う液晶パネル、通信用のWi-Fi機能、カメラやマイク、CPUなど、必要なアセットは一通りそろっていた。
ただ、チームが考えた当初のコミュニケーションロボットは、今のニコボとはほど遠いものだった。「当初われわれが考えたのは、『ちょっと便利でちょっと可愛い』という中途半端なものだ」(増田氏)。
ロボットには、家電を操作する、動画を編集できるといった機能が搭載されていた。従来のパナソニックのインサイド・アウトの発想から完全に脱却することができなかったのだ。