「100億ドル寄付」と「租税回避」の共存は正しいか 資本主義の問題点を拡大する「企業のWOKE化」

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だが、新型コロナのパンデミックが、企業のウォークネスが見かけ倒しであることを明らかにした。大勢の労働者が失業や経済的不安に苦しむ一方で、たとえばナイキやフェイスブック、ブラックロックなどが新型コロナ対策へ寄付した額は、こうした企業の利益に比べればささやかなものであり、大企業が労働者の経済的苦境へ手を差し伸べることもなかった。

また、ジェフ・ベゾスが気候変動対策のために100億ドルを投じる一方で、アマゾンは租税回避や過酷な労働環境など、ウォークとは矛盾する実態を抱えている。

保守派は、企業によるウォークネスの導入は、企業がポリティカル・コレクトネスな社会問題に夢中になり、利益追求というビジネスの目的を歪め、ひいては資本主義自体を希薄化させると非難している。

だが、著者は、「企業のウォーク化は、資本主義に死をもたらすのではなく、むしろ、資本主義とそれが及ぶ範囲を、問題のある形で拡大するのではないか?」と問いかける。

グローバル企業が莫大な利益を獲得し、それを気候変動をはじめとする公共問題に充当すれば、平等や自由、市民の議論を重視する民主主義の伝統は、企業の声に圧倒されるようになる。

ウォーク資本主義は、企業エリートに政治権力を一層集中させ、こうした動向が続けば、民主主義に脅威がもたらされることになるだろう。

真の民主主義は、ウォークな企業の権力ではなく、国民主権に基づくものであり、企業が、選挙という民主的プロセスを経ずに現代政治に対する支配力を増大させれば、政治的権威は民意ではなく、経済的強者に握られることになる。したがって、ウォーク資本主義に対し、民主的な根拠に基づいて反対し、抵抗する必要があると、著者は主張する。

民主主義に及ぼす脅威

社会正義に目覚めるという本来の「ウォーク」は、何ら揶揄されるような概念ではなかったはずである。

しかし、主流派に取り込まれるうちに、その概念は歪められるようになった。

本書は、豊富な事例を用いながら、ウォークなグローバル企業が社会に与える影響と問題についてアカデミックに分析し、それが民主主義に及ぼす脅威を明らかにする。その観点から、ウォーク資本主義に抵抗すべき時が来ていると、著者は警鐘を鳴らしているのだ。

庭田 よう子 翻訳家

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にわた ようこ / Yoko Niwata

慶應義塾大学文学部卒業。主な訳書に、ファン・デル・クナープ編『映画『夜と霧』とホロコースト』(みすず書房)、ゲーノ『避けられたかもしれない戦争』(東洋経済新報社)、ストームほか『イスラム過激派二重スパイ』(亜紀書房)などがある。

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