カルテルに限らない大手電力「競争回避」の深刻 松村敏弘・東大教授に聞く、電力不祥事の本質

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――具体的にはどのようなことが必要でしょうか。

制度設計のあり方について、細部に至るまで再検証する必要がある。具体的には、「内外無差別」と呼ばれるルールが徹底されているかきちんと調べる必要がある。

松村敏弘(まつむら・としひろ)/東京大学社会科学研究所教授。東京工業大学大学院助教授などを経て、2008年から現職。公共経済学、産業組織論が専門。経済産業省の審議会委員として、電力システム改革の議論に関わる(撮影:筆者)

「内外無差別」とは、大手電力グループの発電事業が、自社の小売り部門を優遇する一方、他社への電力販売に際して競争を制限するような縛りをかけるといった不公平の禁止を目的としたルール。これが守られているかどうかについて、経済産業省の電力・ガス取引監視等委員会(以下、電取委)は厳しくチェックすべきだ。

たとえば、大手電力が新電力会社に相対で電力を販売するのに際して、新電力にエリアをまたいで売ってはいけないとか、転売してはいけないといった条項を盛り込んで縛りをかけているケースがある。新電力が購入できる量に上限を設けることで顧客獲得を制限し、シェアが大きくならないようにするといったこともこれまでに行われてきた。

こうした競争制限効果を持つ卸供給契約は、明確に禁止する必要がある。

公取委が突きつけた課題とは?

――今般のカルテル摘発に関連して、公取委は「情報提供」と称して競争制限行為に該当するさまざまな事例を電取委に示しています。例えば、大手電力の中には、卸電力市場への電力の供給量を絞り込むことで市場価格を引き上げ、外部調達に依存する新電力の競争力の低下を考えていた者がいたといいます。

公取委からの情報提供の内容について電取委は、内外無差別の取り組みを強化する前の事例だと見て、さほど重く受け止めていないようだ。しかし、公取委の指摘で、独禁法上疑わしい事例がたくさん見つかったということは、これまでの制度改革では不十分だったということを示していると言わざるをえない。

そうした反省に立って、制度の細部を再点検することの必要性が示唆されたものと私自身は受け止めている。こうした問題にきちんと対応しなければ、電取委は組織としてのレゾンデートル(存在意義)を問われかねないだろう。

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