カルテルに限らない大手電力「競争回避」の深刻 松村敏弘・東大教授に聞く、電力不祥事の本質

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――大手電力の送配電部門が保有する顧客情報が漏洩し、販売部門が不正閲覧していた問題についてはどのようにとらえていますか。

こちらは、送配電部門の中立性に疑義が持たれた事案だ。この問題も重く受け止めなければならないが、大手電力の送配電部門がグループの小売り部門を有利にするためにわざと新電力の顧客情報を漏らしたとは私自身は思っていない。

もちろん過失があったことは間違いなく、社員の意識の低さやルールに関する理解が足りなかったという問題はある。ただ、意図的に組織的に競争を歪めようとしたという類いのものではなかったのではないか。

――どうすれば防げるのでしょうか。

コンプライアンス体制を整備してミスが起こりにくくする、情報システムを物理的に分割する、罰則規定を強化するといった対策によって、かなりの程度において再発を防げるのではないか。

ただし、私の認識が違っていて、わざと顧客情報を漏洩させていたのだとしたら再発はありうる。その場合には、現在の仕組みではネットワーク部門の中立性は保つことはできず、「所有権分離」という形で送配電部門を大手電力グループから切り離すべきという議論が正当性を持ってくるだろう。

不正即、所有権分離は行き過ぎ

――関西電力では、他社の顧客情報を小売り部門が不正に閲覧したうえで、営業活動に使っていたことが判明しています。その点では悪質だったと言えるのではないでしょうか。

関西電力のケースが最も深刻だというのはその通りだ。ただし、関西電力グループの送配電部門が自社グループの営業活動を助けるためにわざと顧客情報を漏らしたとは、私自身はとらえていない。過失で漏れてしまったものを営業部門が悪用していたというのが実態だろう。

――深刻な事例があった電力会社に対し、経産省は業務改善命令を出しています。ただ、電気事業法上では、事実上、罰則はないに等しいのが実情です。

証券取引におけるインサイダー取引規制では、情報が流れることを前提として、その不正な取り扱いをした者に対して罰則を設けている。

他方、電力業では、顧客情報は漏らしてはいけないというルールになっている。その際、情報を受け取った側に対する規定が欠けていて、十分な罰則規定が設けられていなかった。今後整備していく必要がある。

――今回の不祥事を機に、「所有権分離」が必要だと指摘する有識者もいます。

不正を抑止するうえで一定の効果を持つだろう。しかし今回の漏洩が過失から生じたものであるとすると、仮に所有権分離をしていても同じことがありえたと考えられる。

今回の対応として、ただちに所有権分離に議論を持っていくにはハードルが高い。送配電部門を手放すことを強いられた大手電力から、憲法違反(財産権の侵害)との訴訟も招きかねない。

だが今回の一連の対策でなお同種の問題が頻発するなら、所有権分離以外の方法による解決が困難であることが示されることになり、憲法違反との主張は説得力を失うだろう。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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