不正続く電力、送配電事業の「許可取り消し」を 法政大学の高橋洋教授に聞く「真の再発防止策」

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――他方、大手電力各社では、送配電部門が保有する他社顧客情報を小売り部門の社員が不正に閲覧し、関電のような一部の企業は営業活動にも使用していました。これについては電取委が3月31日、関電などの大手電力に関して経済産業大臣宛に電気事業法に基づき業務改善命令を出すように勧告しました。

こちらの問題は電力システム改革の根幹である「発送電分離」(送配電事業の中立化)のルールをないがしろにするもので、新電力は顧客流出などの実害を被った。中立性が求められるにもかかわらず、大手電力にとって送配電部門は今でも一体と考えているのだろう。

――こうした一連の不正事案を踏まえて、大手電力会社はコンプライアンスの強化など再発防止策を打ち出しました。

高橋洋
高橋 洋(たかはし・ひろし)/法政大学社会学部教授。東京大学先端科学技術研究センター特任助教、富士通総研経済研究所主任研究員、都留文科大学教授などを経て、2023年4月より現職。内閣府・再生可能エネルギータスクフォース構成員

これまでの電力システム改革では「発送電分離」が行われたが、発電や小売り部門が送配電部門とともに同じ電力会社グループの下に置かれる「法的分離」にとどまった。しかし、今回の不正閲覧問題では、小売り部門の社員が送配電部門に属する他社の顧客情報を不正に入手していた。

大手電力では、小売り部門と送配電部門の情報システムを物理的に分割していた社もあったが、そこでも不正閲覧は起きていた。法的分離の形で組織こそ分かれていても、同じ会社だという意識は変わらず、情報共有は当たり前だと思っていたのではないか。今さら社員教育を強化しても、問題は解決しないだろう。

こうした不正を見逃してきた電取委の改革も必要だ。規制権限の強化や人員の拡充も必要だが、その上で公取委と同様、もっと強い権限を持つ国家行政組織法上の「3条委員会」へ改組すべきだ。

罰則強化のみならず、送配電事業の分離を

――今後、電力業界はどのように改革すべきでしょうか。

10年前に電力システム改革のあり方を決めた際、厳しい行為規制とセットでという条件で、法的分離でよいという結論に落ち着いた。しかし、これほどまで不正が相次ぐ以上、電気事業法上の罰則強化などだけでは不十分で、大手電力はいったん解体し、発電や送配電、小売などの各事業の資本関係を切り離す「所有権分離」を進めるべきだ。

これまで所有権分離は、民営が原則の日本では難しいと思われてきた。しかし、電気事業法の条文に基づく許可取り消しは可能で、そうすれば結果的に所有権分離になる。今回の事案はそれに該当するほど悪質だ。事前に送配電事業の受け皿となる会社を見つけておき、その会社に事業を継承させればいい。

電力の安定供給を阻害するという指摘もあるが、欧米などの実施事例を見ても停電が増えているといった弊害は見当たらない。再生可能エネルギーの導入を加速し、エネルギー転換を進めるうえでも、所有権分離を中心とした新たな電力システムへの移行は急務だ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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