「野球の試合長すぎ」大谷も違反のルール導入の訳 北米4大スポーツの中でも野球の試合時間は長い

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アメリカ版のOfficial Baseball Rules (2021 edition)にも同様の条項がある。

(c) Pitcher Delays
When the bases are unoccupied, the pitcher shall deliver the ball to the batter within 12 seconds after he receives the ball. Each time the pitcher delays the game by violating this rule, the umpire shall call “Ball.”

日米のプロ野球公式戦は、野球の最も基本的なルールを無視した状態で行われてきたのだ。MLBのピッチクロックは12秒ではなく「15秒以内」だからまだ緩いともいえるが、これが本来の野球の姿ではないのか。

NPBの公式戦の試合時間もMLBと同様、ほぼ3時間10分で推移し、時には非常に長くなることもある。筆者は昨年、京セラドームで巨人主催のヤクルト戦を観戦した。延長12回8-8、試合時間は実に5時間28分、終わったのは午後11時半に近かった。両軍の投手は合計16人、投手コーチは時間を気にせず、悠々とマウンドに行って投手交代をしていた。終わりの時間は誰も気にしていないようだった。終電がなくなるために途中で席を立つ人が相次いだ。

甲子園の高校野球の試合が短いワケ

一方で、甲子園の高校野球は、1日に4試合を行っても夕方には終わっている。1試合が2時間程度で終わるからだ。

高校野球は投手交代も少なく、投球のインターバルも短い。しかし、それだけではない。甲子園初出場の監督は、大会役員から「勝っても負けても2時間以内で試合を終わらせなさい」と厳命されるのだ。「攻守交替は駆け足で、バッテリーの打ち合わせも短くしなさい」と言われる。それもあってスピーディなのだ。筆者は春夏の甲子園では、1日3~4試合を何日か観戦するが、プロ野球を1試合見るより消耗は少ないように思う。

NPBは「申告敬遠」は導入したが、「ワンポイントリリーフの禁止」「タイブレーク」は導入していない。「ピッチクロック」の導入には設備投資が必要なため、簡単ではないだろうが、WBCで新しいファンが増える中、スピーディな試合展開が求められる。

試合時間を考えるうえで、もう1つの要因がある。それはテレビCMだ。昔のテレビの野球中継では「CMの間に〇〇選手のホームランが出ました」みたいなことがしばしばあったが、現在はスポンサーとの絡みでCM中はプレーを再開しないことがある。

日本シリーズやWBCなど大きな大会では、攻守交代時に選手が守備位置に就き、打者が出てきているのに、主審が「プレイボール」を宣しないことがある。これは「CM待ち」がかかっているのだ。球場に行けばバックネット裏からスタッフが出てきて「あと30秒」「あと15秒」などと書かれたボードを掲げるのを見ることができる。

野球の本来のあり方を考えても、試合時間の短縮は望ましい。選手がプレースタイルの変化を受容するだけでなく、スポンサーの「時短」への協力も必要になるだろう。再び野球を人気コンテンツにするには、球界内外の関係者が知恵を出し合うことが重要だ。

広尾 晃 ライター

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ひろお こう / Kou Hiroo

1959年大阪市生まれ。立命館大学卒業。コピーライターやプランナー、ライターとして活動。日米の野球記録を取り上げるブログ「野球の記録で話したい」を執筆している。著書に『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』『巨人軍の巨人 馬場正平』(ともにイースト・プレス)、『もし、あの野球選手がこうなっていたら~データで読み解くプロ野球「たられば」ワールド~』(オークラ出版)など。

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