サントリー、ビール最激戦区に新商品投入の勝算 「スーパードライ」や「一番搾り」と真っ向勝負

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サントリーが展開するビール類のうち、販売数量の6割を占めるのが第3のビールの「金麦」だ。ビールよりも安価なことがウリだった第3のビールは、ビールとの価格差が縮まることで数量は減少傾向にある。金麦も2020年をピークに前年割れが続いており、今後も大きな成長は見込めない。

一方、酒税改正により、ビール類の中で販売数量が今後増えるとみられるのが、狭義のビールだ。今年10月には、ビールの税額は70円から63.35円に引き下げられ、新ジャンルという分類が消滅する。狭義のビールでサントリーはサッポロビールに継ぐ4位。酒税改正に対する危機感は強い。

サントリーの看板ブランド「ザ・プレミアム・モルツ」は270円(350ml・コンビニ価格)とスタンダードビールに比べ高級帯に位置付けられる。一方、狭義のビールで最大のボリュームゾーンは、230円ほどのスタンダードビールだ。

「スーパードライ」を筆頭に、キリンビールの「一番搾り」、「サッポロ生ビール黒ラベル」と大手3社がしのぎを削るが、サントリーはここで存在感を示すことができていない。そのため「(スタンダードビールに)攻め込まないといけないと思っていた」(サントリー・西田英一郎常務)。

スタンダードビールで「勝ち筋」見出せるか

ただ、スタンダードビール市場で勝つことは簡単ではない。実際、サントリーはこの領域に挑戦するも、高い壁に跳ね返されてきた過去がある。

2015年には「ザ・モルツ」を発売。2016年に販売数量730万ケースを目指すとぶち上げていたが、539万ケースと大幅未達に終わっており、家庭用の缶容器は今年で販売を終える見込みだ。また、2021年には糖質ゼロを売りにした「パーフェクトサントリービール(PSB)」を発売したが、スタンダードビール市場で他社を脅かすほどには至らなかったのが実情だ。

スタンダードビールでヒット作を生み出せていない現状について、鳥井社長は「スタンダードビールの売り方がわからない、というのが正直なところだ」と話す。プレモルのような高級帯のビールは週末や祝い事などで飲まれることが多い。一方のスタンダードビールは日常的に飲まれ、より生活に密着したブランドだ。今までの成功体験をトレースすることは難しく、いかに勝ち筋を見つけることができるかが重要だ。

【写真】サントリーの新商品発表会
「サントリー生ビール」の発表会で、サントリーの西田英一郎常務(右)は「満を持してスタンダードビールカテゴリーに、ど真ん中の新商品を投入する」と力強く語った(写真:サントリー)

サントリーが過去、苦渋を舐め続けてきたスタンダードビール。ただ、「国内酒類トップ」を目指すには避けて通れない関門だ。サントリーのビールは、国内酒類の最大市場でも消費者の心を掴むことができるのか、夢の実現は新商品の成否にかかっている。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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