MMTはインフレで本当に「オワコン」になったのか 「デマインドプル」と「コストプッシュ」の違い
しかし、MMTは、主流派経済学者や経済アナリストたちの間では、すこぶる評判が悪い。
MMTに対する典型的な批判は、「政府が自国通貨を発行して支出を拡大すると、高インフレになる」というものである。
そして、この1~2年、世界的なインフレが発生し、日本でも物価が上昇している。
そこで、MMTの批判者たちは、「それ見たことか」と勝鬨の声を上げている。
例えば、一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は、MMTについて「自国通貨で国債を発行できる国は決してデフォルトしない。だから、税などの負担なしに、国債を財源としていくらでも財政支出ができるという主張」とした上で、「こうした財政運営をすればインフレになることの危険を軽視」していると批判する。そして実際にインフレになったことから、「最近のインフレ高進で化けの皮が剥がれたようだ」と凱歌をあげた。
金融アナリストの久保田博幸氏も、インフレが発生したことで、MMTは「どうやら一時的な流行に止まったようである」と述べている。
久保田氏は、MMTについて「『自国通貨を発行できる政府は、インフレにならない限り、大量の国債発行をある程度許容する』といった主張を持った経済理論」と要約した上で、「ここで注意する必要があるのは、「インフレにならない限り」という部分ではなかろうか。2021年中頃から、欧米の物価指数が上昇し始め、2022年に入りそれが加速してきた。つまりインフレが発生したのである」と述べる。
野口教授も久保田氏も、現下のインフレをもって、MMTは失効したとみなしているのだ。
だが、彼らの批判は、妥当とは言えない。
「需要の過剰な増大」か「供給の減少」か
まず、野口教授は、政府支出をいくらでも拡大できるなどという財政運営をすればインフレになるという危険性を、MMTが軽視していると批判する。しかし、より正確には、MMTは、高インフレにならない限り、政府支出を拡大できると主張しているのである。この点に関しては、野口教授よりも、久保田氏の方がより正しく理解している。
ただし、両者ともに間違えているのは、「インフレ」に関する認識である。
インフレには、もっぱら需要の過剰な増大を原因とする「デマンドプル・インフレ」と、供給の減少に起因する「コストプッシュ・インフレ」がある。
MMTが「高インフレにならない限り、政府支出は拡大できる」と主張する場合の「インフレ」とは、デマンドプル・インフレのことである。
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