西松建設、トンネル工事「遠隔化」を急ぐ深刻事情 建設業に迫りくる「2024年問題」対策への武器に

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施工機械の遠隔操作・自動化に取り組んできた西松建設だが、これまでは試行錯誤の連続だった。

「これでは見えない」「この角度ではだめ」。作業員から施工機械のカメラの設置場所について、何度もダメ出しがあった。

「もっとも見やすい場所」との理由から、施工機械の先端にカメラを取り付けることになった。カメラを先端に置くと激しい振動で、さすがに画像がぶれるのではないかとの懸念があったが、「カメラに防振機能をつけることで対応した」(山下副所長)。

施工作業の内容によっては、作業員が音や振動、地盤の傾きなどを感じながら操作することもあり、遠隔操作のコックピットでも、岩盤を砕く音が出るようにし、振動や傾きなども座席に伝わるように改良した。

「この技術を開発することで、俺たちの職を奪うのか」と、現場の作業を担う職人に詰め寄られる場面もあった。ただ、その都度、鬼頭所長らが「職人さんの高齢化は深刻。職人さんの持つ技術を継承する意味でも、機械化やシステム化を進めていくことは重要だ」と説いているという。

西松建設は2023年度までに、山岳トンネルにおける各施工機械の遠隔操作・自動化施工の要素技術を確立し、2027年度までに複数の施工機械を同時に遠隔操作できるシステムの完成(本格的な実用化)を目指す。

スーパーゼネコンも遠隔操作の開発に取り組む

遠隔操作の技術開発に尽力するのは西松建設や、前述した大林組だけではない。

水中作業機の模擬試験
大成建設が1月25日に行った水中作業機の模擬試験。硬岩掘削作業の一環として、遠隔操作で高強度のコンクリートを割った(記者撮影)

スーパーゼネコンの大成建設は、ダムの改修工事で使用する水中作業機の遠隔操作に取り組んでいる。水中作業機に装着する硬岩掘削用のアタッチメントをこのほど開発した。既存のアタッチメントと使い分けることで、「軟弱な堆積土から硬質な岩盤まで、水中のあらゆる地盤に対応できる」と、大成建設の清水正巳執行役員は強調する。

近年は、気候変動の影響による集中豪雨といった水災害が頻繁に起こるようになっている。そのため、政府はあらゆる関係者が協業して流域全体で水害対策を行う「流域治水」を提唱し、ハード・ソフト面での施策を推進する。

ダムの再生を加速することもその一環だ。大成建設は水中作業機の進化により、今後増えていくダム改修工事を取り込み、2年以上もかかることがあったダム改修工期を半分ぐらいに短縮する方針だ。

ゼネコン業界ではほかにも、技術連合組織の「建設RXコンソーシアム」がタワークレーンの遠隔操作の実用化を目指している。業界を挙げた技術開発が結実すれば、土木工事や建築工事の安全性が高まるだけでなく、労働環境が改善し、ひいては若者の就業者が増える要因になるかもしれない。2024年問題対策の大きな武器とするためには、時間の猶予はない。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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