子供達が見た北海道新幹線「トンネル貫通」の瞬間 外界とつながると、一筋の光が差し込んできた

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竹村所長も「貫通の瞬間を地元の子供たちといっしょに味わえてうれしい」と喜んでいた。これまでにも数多くの抗区を担当してきたが、今回は感慨もひとしお。「今後も町民のみなさまに喜んでいただけるような企画を考えたい」と話した。

貫通の瞬間、掘削によってこぼれ落ちた石が子供たちにお土産として渡された。なんの変哲もない石だが、子供たちにとっては宝物だ。

見学が終了し、再びバスに乗るようにうながされた。バスに乗る直前に後ろを振り返ると、作業員たちが掘削面を背に記念写真を撮っているのが見えた。

トンネルの外に出ると、雲の間から太陽が顔を出していた。トンネルに入る前は曇っていたのに貫通の瞬間に光が差し込んだ理由もこれで納得した。山の神様のおかげだ。

「新幹線が開業する町」の現実

長万部町の人口は2023年3月時点で4867人。今から60年ほど前には人口が1万5000人を超えていた。北海道の交通の要衝として多くの国鉄関係者がこの地に住んでいた時代である。

新幹線の長万部駅開業を見据え、駅周辺の商店街や温泉街の活性化を図る必要があると町は考えている。現在の長万部駅の周辺は閑散としているが、新幹線駅ができれば周辺にも商業施設が続々とできるのだろうか。地元のタクシー運転手に聞いてみたら否定的な答えが返ってきた。

長万部駅周辺
閑散とした長万部駅前の商店街(記者撮影)

「北海道新幹線が停車する木古内駅や新函館北斗駅で下車する客は少ないから、駅周辺には何もない。札幌に延伸しても長万部で下車する客は少ないだろうから、ここで商売したいと思う人はいないよ」。でも、立派な駅ビルができればそこで商売しようと思う人がいるのではないか。こんな質問にもこのタクシー運転手は否定的だった。「町の高齢化が進んでいる。新幹線が開通する頃に60〜70代になっている人たちが、冒険をすると思うかい?」。

新幹線が開業しても、その結果としてもし在来線がJR北海道から切り離されたら、開業後の交通はむしろ不便になるのではないかと危惧する町民も少なくないという。新幹線の工事に携わるのは東京や札幌の業者ばかりで地元にあまりお金が落ちないという話も聞いた。これが長万部の町の現実だ。

しかし、トンネルに差し込んだ一筋の光を見つめていた子供たちの表情が忘れられない。新幹線が開業する頃にはまだ中学生か高校生かもしれないが、こうした若者たちが新幹線を生かしたまちづくりの原動力になると期待したい。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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