絶好調サンリオ、「不正発覚」で浮かんだ深刻事情 株価10年ぶり高値でも組織風土の課題が露呈

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サンリオの社員は、なぜ不正に手を染めたのか。調査委が要因として挙げたのが、コンプライアンス意識の希薄さ、そして予算達成や売り上げの予測精度確保に向けた「圧力」だ。

サンリオでは2020年ころまで、創業以来率いてきた創業者の辻信太郎社長(当時)の下、前年度の売り上げに一定の成長率を乗じた予算がトップダウン式に決められていた。調査報告書によると、業績が低迷していた時期でも同様の手法で予算が設定され、それでいて予算達成に向けた有効な対策や事業計画が示されることはほぼなかった。

予算とは別に、各シニアマネージャーが営業担当者の報告などを踏まえて定期的に上司に提出する「売り上げ予測」にも、高い精度が求められた。売り上げ実績が予測を上回った場合でも、シニアマネージャーが叱責を受けるケースがあったという。

前年実績を基に売り上げを予測しやすい物販事業とは対照的に、ライセンス事業は取引先の製造実績などによって売り上げが左右されがちだ。しかしサンリオは物販事業を祖業として成長してきた経緯から、ライセンス事業においても高い精度での予測を求める規範が共有されていた。

こうした状況下で、本来計上すべき売り上げの一部を後ろ倒しにすることで、その後の予算達成をより容易にするとともに、売り上げ予測と実績の乖離を小さくしたいという動機が生じていたようだ。調査報告書内で示された各営業部の売り上げ予測と実績の一致率を見ると、不正が行われた一部の営業部だけ、予測と実績のブレが極端に小さくなっていた。

組織風土改革を進めていた矢先だった

不正を通して浮かび上がった、組織風土の問題。実は2020年に就任した辻朋邦社長ら現経営陣は、経営体制が大きく刷新された直後から、これを全社的な課題として認識していた。

「トップダウン待ち」「個別最適/サイロ化した組織」――。サンリオが2021年に策定した中期経営計画には、自社の組織風土について自虐的な文言が複数並んでいる。

コロナの影響もあり業績が低迷する中、新経営陣は中計策定のため、社員アンケートを実施。すると、「自由に意見が言える文化」や「挑戦が称賛される社風」といった項目の点数が低く、硬直的な組織風土が、社員の士気低下や実行力の欠如につながっていることが明らかとなった。

風土改革を進めるべく、社員アンケートの定期的実施や、評価・報酬体系の見直しに着手。さらに中計策定と併せて、前年度売り上げに成長率を乗じるかたちでの予算設定を見直したほか、予算達成を個人の技能任せにせず、組織的取り組みとするための支援体制強化なども進めていた。

まさにその矢先での不正発覚だっただけに、サンリオの中塚取締役も「今の経営体制において本件が明らかになったことには驚いた」と話す。

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