「フィット」がどうしても売れない切実な事情 N-BOX/フリード2強で迷走するホンダ国内市場

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フィットとN-BOXの対決は、残価設定ローンの返済額にも及ぶ。残価設定ローンは、数年後の残価(残存価値)を除いた金額を分割返済するローンだ。返済期間を終えても車両は自分の所有にならないが、月々の返済額は安くなる。

残価設定ローンでは残価を除いた金額を返済するから、残価(残価率)が高いほど、月々の返済額は安くなる。フィットの3年後の残価率は約45%だから、単純にいえば3年間で55%を返済するが、N-BOXは約50%だから残りの50%を返済すればいい。そうなると同じ価格のフィットとN-BOXなら、月々の返済額はN-BOXのほうが安くなる。

N-BOXの中でも人気の高いカスタムモデル(写真:本田技研工業)

このフィットの不利は、数年後に売却するときの査定額にも当てはまる。そもそもフィットの残価率がN-BOXより低いのは売却時に不利になるためだ。だから現金で買う場合でも、下取り査定を考えればN-BOXが有利になる。これもフィットがN-BOXに敗れた理由の1つだ。

一方、フリードはN-BOXとは価格帯が異なる。ミニバンだから多人数乗車も可能で、車内も大幅に広い。いわばN-BOXの上級3列シート仕様ともいえる車種だから両車は共存が可能になり、1位:N-BOX、2位:フリードという状況となるのだ。

まるで“ホンダのスズキ化”

今後の動向として、N-BOXは2023年末から2024年初旬の間にフルモデルチェンジを行う可能性が高い。後方の並走車両を検知する機能など、安全装備を中心に進化させるはずだ。

フリードも2024年にはフルモデルチェンジを行う。設計が古いだけにプラットフォームを作り変える可能性が高く、e:HEVの採用を筆頭にパワーユニットも刷新させる。

今のホンダの国内販売はN-BOXとフリードが支えているから、次期型も力の入った開発が行われているはずだ。そうなると、フィットの存在感は今以上に薄れていく。

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「背が高くてスライドドアを装着する実用的で小さなクルマ」というホンダのブランドイメージはさらに加速して、「ZR-V」や「シビック」といったミドルサイズ以上の車種はますます苦戦する。

しかも、今はかつての主力商品だった「オデッセイ」と「アコード」の国内販売を停止しているから、ホンダのホームページのカーラインアップを見ると、小さなクルマばかりが並んでいて、まるでスズキのホームページのようだ。“ホンダのスズキ化”が進んでいると言っても過言ではない。

ホンダは、日本の市場をどのように発展させたいのか。残念ながら、その意図がまったく見えない。クルマそのものの実力や商品性は悪くないだけに、心配になる。好評を得にくい現行フィットのデザインは、まさにその混迷が表れているのかもしれない。

渡辺 陽一郎 カーライフ・ジャーナリスト

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わたなべ よういちろう / Yoichiro Watanabe

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまにケガを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人たちの視点から、問題提起のある執筆を心掛けている。

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