「フィット」がどうしても売れない切実な事情 N-BOX/フリード2強で迷走するホンダ国内市場

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そこで、ホンダの国内販売状況を改めて確認すると、もっとも多く売れたホンダ車はN-BOXで、2022年には1カ月平均の届け出台数が約1万7000台に達している。N-BOXは、2022年通年での国内販売総合1位になった。

ホンダ車の2位は、フリードで前述のとおり月平均は約6600台。3位はフィットで約5000台に下がり、4位は「ヴェゼル」の約4200台となる。続いて「N-WGN」が約3500台、ステップワゴンは約3200台であった。

以上のようにホンダの国内販売は、N-BOXが圧倒的だ。2022年に国内で売れたホンダ車の実に36%をN-BOXが占める。続いて2位には、フィットを抜いてフリードが入っている。

不動の1位となっているN-BOX(写真:本田技研工業)

この販売状況を築いたのは、N-BOXだ。2011年に発売された先代(初代)N-BOXがヒット作になり、2017年に登場した2代目は売れ行きをさらに伸ばして、長期間にわたり国内販売のベストセラーとなっている。

今やホンダ車の新車3台に1台以上がN-BOXだから、ホンダのブランドイメージに大きな影響を与えるのも当然だ。かつてのホンダ車はスポーティな走りの印象が強かったが、今は「背が高くてスライドドアを装着する実用的で小さなクルマ」になる。N-BOX以外では、フリードがピッタリだ。

N-BOXが毎月およそ1万7000台も届け出されながら、同じ軽自動車のN-WGNは、そのわずか20%の約3500台と低迷する。この背景にもN-BOXの超絶的な人気がある。販売店は以下のように述べた。

「今は後席をあまり使わないお客様も、室内に開放感があることからN-WGNではなくN-BOXを選ばれる。外観が立派なこともN-BOXの秘訣で、特にフロントマスクの評判がいい。N-WGNは良いクルマなのに選ばれにくい」

N-WGNは一癖あるデザインも災いしたか……(写真:本田技研工業)

軽自動車を購入するすべての人が、N-BOXの広い車内やスライドドアを必要とするわけではない。

N-BOXよりも背が低く後席ドアもスライド式でないN-WGNは、ボディが軽いからN-BOXよりも燃費に優れ、価格は同等グレード同士で比較して約20万円安い。N-WGNも後席の足元空間はN-BOXと同様に広く4名乗車にも適するが、売れ行きはN-BOXが圧倒的に多い。

結果的に割安なN-BOX

N-BOXは、同じようにフィットの販売にも影響を与えている。N-BOXで売れ筋となる「カスタムL」グレードの価格は178万9700円で、フィットに1.5リッターガソリンエンジンを搭載する「ホーム」は182万6000円だから、ほぼ同額だ。

従来の認識では、価格がコンパクトカーと同程度なら軽自動車のN-BOXは割高に感じた。しかし、今はこの先入観が薄れている。エアロパーツを装着して外観がカッコ良く、車内も広くて使いやすければ、N-BOXが買い得と考えられている。

その結果、N-BOXはN-WGNと同じようにフィットの需要も奪った。販売店からは「フィットのお客様に2人目の子供が生まれると、N-BOXに乗り替えることがある」という話も聞かれる。

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