企業に「永遠に成長を強いる」絶望的なメカニズム 「複利的成長」を求め続ける資本の暴力的な力

✎ 1〜 ✎ 3 ✎ 4 ✎ 5 ✎ 最新
拡大
縮小

投資家が企業の「健全性」を評価する際に純利益に着目しないのはそのためだ。彼らは利益率――言い換えれば、その企業の利益が毎年どれだけ成長するか――に着目する。資本家の観点に立てば、利益に意味はない。肝心なのは成長率なのだ。

投資家は少しでも成長の匂いのするものを求めて、貪欲に世界中を探し回る。もしフェイスブックの成長が鈍化する兆しが見えたら、彼らはその資金をエクソンモービルやタバコ会社や学生ローン等々の成長企業に移すだろう。

この容赦ない資本の動きは企業にとって強力なプレッシャーになり、企業は成長するためにできることを何でもするようになる。

フェイスブックで言えば、より攻撃的な宣伝、より依存性の高いアルゴリズムの作成、悪徳業者へのユーザー情報の売却、プライバシーの侵害、組織的な政治的偏向、さらには民主主義への攻撃といったことだ。

なぜなら、成長できなければ投資家は手を引き、会社は潰れるからだ。成長か死か。他に選択肢はない。この拡大の動きは、他の企業にもプレッシャーをかける。

突然、誰もが安定したやり方に満足できなくなる。拡大の方向に進まなければ、競合他社に飲み込まれる。成長という鉄則に誰もが心を奪われているのだ。

「複利」という危険な罠

しかし、なぜ投資家は飽くことなく成長を追い求めるのだろう。それは、資本は動かさなければ、インフレや市場の変化などのせいで価値が下がるからだ。

そのため、資本家のもとに集まった資本は、成長への強力なプレッシャーになる。資本が蓄積すればするほどプレッシャーは増していく。資本は次の「解決策」を求める。

これが問題になるのは、成長には複利的性質があるからだ。世界経済は通常、1年で約3%成長している。経済学者に言わせれば、これは大半の資本家に利益を保証するために必要な成長率だ。

3%は大して多くないように思えるが、それは、わたしたちが成長を直線的な成長と考えがちだからだ。資本再投資の土台となっている複利的成長は、わたしたちが気づかないうちに、油断のならないやり方で忍び寄ってくる。

次ページインドの古い寓話が教える複利の怖さ
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT