
地方創生2.0。耳あたりのよいこの掛け声の下で、この4月から中央官僚を「地方創生支援官」として地方に派遣する制度が始まった。初代地方創生担当相である石破茂首相の肝煎り政策らしいが、目新しさはない。
中央官僚を地方に送り込み、活性化を図る──このアプローチは形を変えながら何度も繰り返されてきた。成果は出たのか。衰退が止まらない地方の現実が、その答えではないか。
今回は、中央官僚が「副業」という形で地方を支援する。「ついでの地方創生」で、事をなせると思っているのだろうか。
中央政府の政策は「成功事例の横展開」に終始しがちだ。地方創生にこの手法は通じない。地域再生は、他所のやり方をなぞってできるものではないからだ。必要なのは、地元の人々がその土地特有の課題を見つけ、再生に向けたエッセンス、つまり「自分たちの原液」をつくり出すことだ。
リスクテイカーが不在
正解なんてものは最初から存在しない。むしろ、常識外れに見える挑戦、不合理に映る模索、その中にこそ地域の活力が眠っている。政治や行政の支援ではなく、地元のプレーヤーたちの腹の底からの決断と行動。それがなければ何も始まらないのだ。
岡山県の倉敷で、後世に遺(のこ)る産業基盤や観光基盤を築き上げた実業家の大原孫三郎は、こんな言葉を放っている。
「10人の人間のうち、5人が賛成するようなことは大抵手遅れだ。7、8人がいいと言ったらもうやめたほうがいい。2、3人くらいがいいと言うことをやるべきだ」
挑戦とは孤独なものであり、早すぎる合意は革新の芽を摘む。根回しと合意形成が求められる行政文化の中で新価値は生まれない。
話を戻そう。「支援官」制度は成功しないと私が断言するのは、リスクテイカーが不在だからである。他所の成功事例を基に、合意形成を経ながら事を進めざるをえない政治・行政は、そもそも地方創生と相性が悪い。
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