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トランプとマスクを隔てる「埋めがたい溝」の正体、2人の思想・哲学の違いはどこにあるのか

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5月30日(金)、ワシントンDCのホワイトハウス執務室で記者会見するドナルド・トランプ大統領(右)とテスラのイーロン・マスクCEO。 このセレモニーは、「険悪な離婚」との見方を払拭する意味を持っていた(写真:ブルームバーグ)

ドナルド・トランプ大統領とイーロン・マスク氏の決裂は、二人の世界観の違いを浮き彫りにした。トランプ大統領は実利主義者だが、マスク氏はリバタリアンとして知られ、思想的隔たりは大きい。

現代のアメリカには多様な価値体系と道徳規範が存在し、人口構成の変化やテクノロジーの進歩とともに変容しつつあるが、ここ最近存在感を増すリバタリアニズムの思想はアメリカを理解する鍵になる。

リバタリアニズムの教祖的存在として知られるアイン・ランド

リバタリアニズムの教祖的存在として知られるのが小説家のアイン・ランド(1905-1982)である。

ランドの作品に影響を受けた経営者は多く、レイ・ダリオ(ヘッジファンド大手ブリッジウォーター・アソシエーツ創業者)、スティーブ・ジョブズ(アップル共同創業者、故人)、ピーター・ティール(起業家、投資家)などが引き合いに出される。マスク氏もその1人だ。

ランド思想の日本での知名度は低く、理解が行き届いているとは言いがたい。リバタリアニズムの源流であるランド思想は起業家・経営者の哲学でもある。この連載ではビジネスパーソンを対象に、アメリカの政治・経済を大きく動かしてきたその哲学を、時事問題を参照しつつ紹介していく。

罵り合うトランプとマスク

なんとも生々しい喧嘩を、世界が、リアルタイムで、固唾をのんで見守った。SNSのプラットフォームの上で。そして世界一の権力者と世界一の富豪の最強の同盟関係がいともあっけなく解消された。6月4日のドナルド・トランプ大統領とイーロン・マスクのX上でのやり取りのことだ。

それはマスク氏のX(旧ツイッター)での感情むき出しのポストから始まった。

罵り合いの始まりとなった6月4日のポスト(写真:Xをキャプチャ)

「もう我慢の限界だ。この巨大でトンデモな、バラマキだらけの予算案には反吐がでる。賛成した議員は恥を知れ。みな間違ってることはわかっていたはずだ」「ただでさえ膨大な財政赤字は2.5兆ドルに大きく膨らんで、アメリカ国民に破滅的で持続不可能な債務を課すことになる」「議会はアメリカを破産させている」「法案を葬れ」

これはトランプ大統領が「One Big Beautiful Bill」と名付け、5月22日に下院を通過した大型減税法案に対する批判だ。議決は僅差で賛成215票に対し、反対は214票だった。過半数の53議席を共和党が占める上院での審議は今週スタートするがリバタリアンのランド・ポール上院議員ら債務上限の引き上げ規定に断固反対の構えを見せる共和党の議員もいる。

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