不貞相手への慰謝料請求が欧米で認められない訳 貞操は法的にみればあくまで配偶者間の約束

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「相手を法廷にさらして復讐したい」という気持ちは近代法の原則に反する疑い(写真:metamorworks/PIXTA)
離婚率が3割を超える日本の現状にあって、夫婦間の争いが法廷に持ち込まれるケースも多く見られます。夫や妻に不貞があった場合、日本の法律ではどのように処理されていくのでしょうか。元裁判官の瀬木比呂志氏の著書『我が身を守る法律知識』より一部抜粋・再構成のうえ、ご紹介します。

家族法の精神にそぐわない

夫や妻に不貞があった場合にその相手方に対しても不法行為に基づく慰謝料請求ができるか(第三者に対する不貞慰謝料請求)については見解が分かれていますが、最高裁判例はこれを認めています(1996年〔平成8年〕3月26日判決は、その根拠を「婚姻共同生活の平和の維持」に求めています)。

しかし、これは、欧米では認められておらず、近代法、特にその中でも時代の変化に応じて従来の考え方が大きく見直されてきている家族法の精神からすると、疑問が大きいといえます。

簡潔にいえば、第三者に対する不貞慰謝料請求肯定論の根底には、「配偶者をモノのように支配しているという考え方」があるが、これは現代家族法の精神にそぐわないということです。

より詳しく敷衍(ふえん)すれば、次のようになります。

「性というのは非常にデリケートで個人的な領域の事柄であり、したがって、貞操は法的にみればあくまで配偶者どうしの間での約束であって、配偶者が第三者と性交渉をもった場合に、配偶者はともかく、その感情の移った相手の第三者まで責め、プライバシーを暴くことは、配偶者を自分の持ち物のように意識していること、その意味で配偶者の人格を尊重していないことの現れということになるのではないか」(水野紀子教授と裁判官時代の私との対談「離婚訴訟、離婚に関する法的規整の現状と問題点ーー離婚訴訟の家裁移管を控えて」判例タイムズ1087号4頁以下において私が要約した水野教授の見解で、私の意見も同様です)

また、前記の最高裁判例は「婚姻共同生活の平和の維持」をその理由として挙げていますが、第三者を訴えること、法廷に紛争を持ち出すことで夫婦の溝が大きくなり、婚姻共同生活の平和がかえってそこなわれることもありえます。

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