ジム・ロジャーズ「円安は日本復活の起爆剤になる」 日本が世界から「捨てられない」ための方策

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今の日本の状況は、1920年代のドイツ(ワイマール共和国)の状況とも重なる。

当時ドイツは、第1次世界大戦の敗戦国となり、戦勝国から多額の賠償金を課せられていた。そこで中央銀行が取った方策は、日銀と同様に大量の紙幣を印刷することだった。その結果、通貨・マルクはあまりにも弱くなり、1921年、1兆倍ともいわれるハイパーインフレが起こった。

国民がたくさんの札束を持って買い物へ行ったことから、この年のことを「手押し車の年」と呼ぶ。このハイパーインフレは、第1次世界大戦の戦費を国債で賄ったことがそもそもの発端と言われるが、どれほど状況が悪化していたか想像できるだろう。多数の失業者や破産する人が生まれた。

しかし、このような状況をチャンスに変えて、ドイツの株式市場で巨額の富を得た人も存在した。現金だけを保有することにリスクを感じたドイツ国民が、焦って株式市場に投資したのである。彼らは貴金属を購入するなどの代替金融投資を行うことで、ハイパーインフレを回避した。これから日本でも、1920年のドイツと似たような現象が起こるかもしれない。

このような例が示すように、負債のおかげでチャンスを手にできる人も一部存在する。ただし、負債をしっかり管理できなければ国家は破綻してしまう。これは個人も同様で、船や不動産などの負債をうまく管理して大金持ちになった人もいるが、他方で、破綻してしまった人も数知れない。うまく管理できるか否かが明暗を分けるのだ。

日本初・ビジネスの勝ち筋

円安をチャンスに変えるために、日本企業にとって肝心なことは質とイノベーションだ。

今はもう高度経済成長の時代ではなく、2023年だ。日本はロボットや農業器具の生産を得意としてきたが、ベトナム、中国、韓国、インドなども農業器具の生産を行っており、日本製品と同等あるいはそれ以上の成功をおさめるかもしれない。こうした国々との熾烈な価格競争に、日本が勝てるとは限らない。

また、日本は得意分野であるゲームやアニメなどのコンテンツビジネスで成功してきたが、近年はK-popや映画、韓国ドラマといったコンテンツの人気が高く、日本は後れをとっている。

韓国がアジアのエンターテインメントの中心になることを、20年前に誰が予測しただろうか。韓国は、国を挙げたエンターテインメントの育成と海外進出への取り組みで、今日の地位を築き上げた。私もK-popのプラットフォームを運営する韓国のスタートアップに投資している。

コンテンツビジネスでは、言語の要素もとても重要だ。日本のコンテンツは日本語にしか対応していないものが多い。しかし韓国ドラマやK-popは英語にも対応しているので外国人が楽しめ、世界的なブームを巻き起こした。

韓国は国内マーケットが小さいため、最初から世界を意識していたのである。アーティストたちはアメリカのショービジネスで勝負するため積極的に英語を学び、インタビューやスピーチまでこなしている。はたして日本のアーティストたちはそこまでの準備をしているだろうか。

次ページ国内市場で売ることを意識するあまり「ガラパゴス化」した
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