マツダ「米国通」の新社長に託された重大責務 EV投資の原資確保へ「6万ドル」の高級SUV投入も

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2022年8月にはインフレ抑制法案(IRA)も成立し、アメリカのEVを取り巻く環境は激変した。同法では、北米で最終組み立てが行われ、電池に含まれる重要鉱物や部品の要件を満たしたEVについては、購入者に最大7500ドルの税額控除を受ける権利が与えられる。

マツダのEV「MX-30 EV」
マツダの「MX-30 EV」。2020年に欧州を皮切りに発売した。同社が現在販売しているBEVはこの1車種のみ。写真の車両は日本市場向け(写真:マツダ)

現状、マツダがアメリカ市場に投入したEVは「MX-30 EV」のみ。電動化が進むカリフォルニア州で2021年10月に発売されたが、2023年2月までの累計販売実績は605台に過ぎない。これについてマツダ幹部は、「今後のアメリカ市場におけるEV展開を探るうえでの実験的な意味合いが強い。実証は進んでいる」と話す。

EVをアメリカで現地生産するとなると、多額の投資が必要となる。また、EVを取り巻く規制は今後変更も予想されるだけに、スモールプレーヤーたるマツダが慎重的な姿勢になるのは頷ける。

毛籠氏はアメリカにおけるEV展開について、IRAなどの規制の詳細が明らかになり次第、それらの評価を行うとしたうえで、「州ごとのお客様の状況も違うので、現実に立脚した取り組みを着々と進めていく」と述べた。

会社の成長を担う「ラージ商品群」

マツダは2030年までの電動化対応に、車載電池の調達など取引先との協業も含めて1兆5000億円を投じる計画だ。EVが本格普及するまでの過渡期においては、電動化投資の原資を確保するために内燃機関搭載車でいかに収益を最大化していくかが重要になる。

そのカギを握るのが「ラージ商品群」と呼ばれる中大型の上級SUVだ。2023年春には、ワイドボディ3列シートの「CX-90」を、2024年3月期中にはワイドボディ2列シートの「CX-70」をアメリカで発売する。CX-90は日本で生産しアメリカに輸出する一方、CX-70の生産地については未公表だ。CX-90のパワートレイン(駆動装置)には、マイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドを採用した。

新型車種はかなりの高級志向となる。「CX-9」に代わって新たにフラッグシップになるCX-90の価格はグレードによって3万9595~5万9950ドル。基幹車種のCX-5が2万6700~3万9650ドル、2022年4月の発売後、好評を博するCX-50が2万7550~4万2300ドルであることを踏まえると、かなり高価格帯に位置し、その分、利幅も期待できる。

ラージ商品群の拡充により、上級グレードを志向する既存オーナーの他社への流出を防ぐとともに、新たな顧客層の開拓も期待できる。毛籠氏は2024年3月期のマツダの成長について、「成長を軌道に乗せていく大きなドライバーは、ラージ商品群の展開だ。これを成功裏に導きたい」と語った。

ドル箱市場のアメリカにおけるラージ商品群の好不調は、会社全体の電動化の進展にも影響を与える。アメリカ市場を知り尽くした毛籠新社長の手腕に注目が集まる。

村松 魁理 東洋経済 記者

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むらまつ かいり / Kairi Muramatsu

自動車業界、工作機械・ロボット業界を担当。大学では金融工学を学ぶ。趣味は読書とランニング。パンクロックとバスケットボールが好き。東京都出身。

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