「統合抑止戦略」から見えるアメリカの身勝手さ 代理戦争をそそのかし、はしごを外すアメリカ

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石垣駐屯地に向かう陸上自衛隊の車列に向かい抗議する人(写真:共同通信)

アメリカとイギリス、オーストラリアの3国同盟「オーカス(AUKUS)」が、5隻の原子力潜水艦をオーストラリアに配備(3月13日)、戦後最悪に陥った日韓関係改善に向けた首脳会談(3月16日)、沖縄・石垣島の陸自駐屯地開設(3月16日)――。一見無関係にみえるこの3つを貫くのが、アメリカ・バイデン政権の「統合抑止戦略」である。だが「抑止」は名ばかりで、緊張を激化させるだけのこの戦略は、同盟国に大軍拡を求める一方、自らは軍事衝突からの退場すら計算に入れた身勝手な戦略ではないのか。

日米同盟強化から着手

「統合抑止力」とは何か。アメリカ国防総省は、「アメリカが他の競争相手や潜在的な敵に対する際、同盟国やパートナー国とともに対峙する」国防戦略のカギだと説明している。

アジアでは日本、韓国、台湾、オーストラリアなど同盟・パートナー国に軍事力強化を求め、アメリカの軍事力と統合して抑止力を強めるのが狙いだ。もはやアメリカ1国では、中国に対抗できないという現状認識が構想のベースにある。

バイデン政権は2022年2月、「インド太平洋戦略」を初めて発表したが、この中に初めて「統合抑止力」が登場し、同10月の「国家安全保障戦略」にも盛り込まれた。時間軸からみると、2021年1月発足したバイデン政権は世界戦略の中心をアジアに移した。中国を「唯一の競争相手」とみなし、「民主vs専制」競争と位置づけ、①同盟関係の再構築、②地球温暖化やパンデミックなどグローバル課題での国際協調回復、の2本柱を掲げたのだった。このうち「同盟関係の再構築」こそが、対中競争勝利を目指す役割を担う。

同盟再構築でバイデン政権がまず着手したのは、日米同盟の強化と深化だった。台湾有事を念頭に、日米同盟の性格を「対中同盟」に変え、日米の軍事一体化を加速させるプロセスはわずか2年というスピードで完成した。

岸田文雄政権は2022年12月に閣議決定した安保関連3文書で、「敵基地攻撃能力」の保有と、防衛予算のGDP比2%への倍増を盛り込んだ。「統合抑止戦略」に基づくバイデンの要求をほぼ全面的に受け入れたのだ。

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