「統合抑止戦略」から見えるアメリカの身勝手さ 代理戦争をそそのかし、はしごを外すアメリカ

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日米同盟再強化と併せてバイデン政権が傾注したのが、「新同盟枠組み」だ。2021年3月12日、バイデン政権は日米豪印4カ国(クアッド=QUAD)の初首脳会議をオンラインで開いた。中国との国境紛争を抱えるインドを対中包囲網に引き込むのが狙いだった。

続いてバイデン政権は、2022年5月の訪日で中国経済とのデカップリングを目指すアジア諸国との新経済枠組み「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)を創設(同5月23日)。これに先立ち、2021年9月15日、米英豪3カ国の新軍事同盟「オーカス」の創設を発表し、オーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与すると発表した。

オーカス創設の狙いは、同じアングロサクソンのイギリスを対中抑止戦略の戦列に加えたことだ。オーストラリアに対し西太平洋と南シナ海で、原潜によって中国ににらみを利かせる「新ステージ」の構想にある。アメリカが原潜の数で中国に後れをとるとの懸念が根底にある。

日韓関係修復の原動力はアメリカ

これが日米同盟強化と新同盟枠組み創設の概要だ。「統合抑止戦略」の中心的課題である台湾問題に照らせば、原子力潜水艦5隻のオーストラリア配備と、石垣島の陸自駐屯地開設はわかりやすい例だと思う。

わかりにくいのは、日韓関係の修復と統合抑止戦略との関係であろう。バイデン政権は、徴用工問題で対立する日韓関係が、「統合抑止戦略」にとってカナメ(要)の「日米韓同盟」復活にとって「最大の障害」とみなしてきた。

とくに文在寅(ムン・ジェイン)前政権が2017年10月、中国に①アメリカ軍のミサイル防衛システム「THAADの追加配備はしない、②アメリカのミサイル防衛網に参加せず、③日米韓の軍事同盟化はせずという「3つのノー」を約束したことを苦々しく見ていた。

それだけに、バイデン政権は「親米派」の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権の登場を歓迎、日韓両政府に関係改善するよう圧力をかけてきた。朴振(パク・チン)韓国外相は2022年8月10日、「『3つのノー』は合意や約束ではない」と同政策の継続を否定。尹大統領も、台湾問題について「中国が台湾を攻撃した場合、北朝鮮も挑発をする可能性が極めて高い」と、台湾と朝鮮半島「連動説」を展開した。

バイデン政権はロシアのウクライナ侵攻を受け、「統合抑止戦略」の対象に中国、ロシア、北朝鮮を据えた。まるでブッシュ(子)政権時代に唱えられた「悪の枢軸」のように新「悪の枢軸」を設定したかのようだ。しかし、対中同盟化や「アメリカか中国か」の2択を迫られるのを嫌う東南アジア諸国連合(ASEAN)やインドと並んで、これまで韓国もアメリカの戦略の「弱い環」だった。

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