「統合抑止戦略」から見えるアメリカの身勝手さ 代理戦争をそそのかし、はしごを外すアメリカ
だから、日韓関係改善によって、北朝鮮のミサイル発射実験を「米日韓同盟」で対応できるとすれば「統合抑止戦略」にとって大前進になる。ただ、徴用工問題の解決策に韓国世論の反発は強く、尹政権の支持基盤は決して強くはない。日韓関係正常化の環境は決して安定していない。
一方、この戦略の大問題は、「台湾進攻の抑止」に資するどころか、米日台の「暗黙の同盟」の成立によって、台湾海峡情勢を逆に緊張させる結果をもたらしていることだ。そもそもアメリカが、台湾問題を対中戦略の中心に据えた理由は、中国の台湾侵攻が切迫しているという具体的事実に基づいたものではない。中国が軍事力を大幅に強化して、アメリカの戦力投射能力を阻止する能力を持つに至ったという危機感が背景である。
台湾でも「代理戦争」
バイデン政権は、アメリカ高官の台湾訪問や、質、量とともに史上最大の台湾への兵器供与などの挑発によって、中国の軍事演習など過剰反応を引き出し、西側世界で中国の威信を低下させる戦略をとってきた。中国からすれば、「1つの中国」を骨抜きにする挑発がなければ、台湾への軍事的圧力を強める必要などない。
しかしアメリカの戦略は台湾海峡で緊張を激化させて、中国の過剰反応を引き出すことにある。2024年1月の台湾次期総統選に向けて、アメリカは緊張を激化させる政策を継続するはずだ。
台湾の大学教授ら有識者37人は3月20日、台北での記者会見で「平和、反兵器、自主」などをスローガンに「反戦声明」を発表、台湾海峡でのアメリカの挑発を批判し、アメリカ政権を戦争に追いやる「詐欺集団」と非難した。台湾の有識者による「反戦活動」が伝えられるのはきわめて珍しい。
この戦略・政策に基づいて、2021年4月の日米首脳会談は、台湾有事の初期段階に米海兵隊が自衛隊とともに南西諸島を「機動基地」化し、中国艦船の航行を阻止する「共同作戦計画」にゴーサインを出した。
さらに2023年の「2プラス2」は日米の基地の共同使用を拡大し、海兵隊を2025年までに、離島防衛に即応する「海兵沿岸連隊」への改編で合意した。台湾有事への日米共同即応体制が急速に整えられたことになる。
しかし問題はそこだけにあるのではない。
アメリカは台湾有事でもアメリカ軍を投入せず、ウクライナ同様「代理戦争」の可能性を探っている。アメリカ軍制服トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は2022年4月7日、アメリカ上院の公聴会で①台湾は防衛可能な島。中国軍の台湾本島攻撃・攻略は極めて難しい、②最善の防衛は台湾人自身が行う、③アメリカはウクライナ同様、台湾を助けられる、と証言し、代理戦争の可能性を示唆した(拙稿「自分たちで守れ? 台湾有事でも派兵しない米国」)。台湾ではこの証言以来、台湾防衛に対するアメリカの信頼感が急速に後退している。
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