好調に見える米国経済は「まだ病み上がり状態」だ バイデン大統領「キーウ電撃訪問」の舞台裏

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そこからバイデン氏は再び10時間鉄道に揺られ、ワルシャワに戻って21日にはポーランドのアンドレイ・ドゥーダ大統領と会談する。そして演説に及び、「キーウは毅然と立ち向かっている」「ウクライナはロシアの勝利にはならない」と述べたのである。

同じ21日には、モスクワでウラジーミル・プーチン大統領が年次教書演説を行っていた。「ウクライナ戦争は自衛のための戦い」であると国民にアピールしていたが、その直前にアメリカ大統領がキーウに入っていたのは、大いに面目を失うことであったに違いない。

このキーウ訪問に先立つ2月7日、バイデン大統領が行った一般教書演説はまれにみる「丸ドメ」の内容であった。外交に割いた部分は全体のわずか7%程度。雇用、インフラ投資、製造業の復権などを打ち出し、さらに教育、警察改革、薬物中毒問題、がん治療などの問題も取り上げていた。内政重視は確かにバイデン政権の大方針だが、今から思えばあれは多分に「外交に関心がない素振り」をしていたのか、ということになる。

しかし、アメリカ国内のウクライナ支援に対する世論の支持は、かならずしも強いものではない。この先、景気の悪化が深刻になってくれば、「対外支援を止めろ」の声が強まりかねない。現に共和党の一部議員からは、「大統領はキーウよりも、(不法移民問題がある)南部国境を訪れるべきだ」との声も上がっている。

そしてバイデン政権の支持率は、いまも4割台前半にとどまっている。ワルシャワでは世界に向けて「民主主義の強さ」を強調したバイデン氏だが、その民主主義は「世論」というきわどいものの上に乗っかっている。「なぜキーウに行かないのか」という民主党内からの非難には応えることができたけれども、「なぜキーウに行くのか」という共和党からの批判には応えられない。そして「病み上がり」で「インフレ警戒」のアメリカ経済は、まだまだ楽観できない状態が続きそうなのである。

岸田首相は「キーウ未訪問」でも無理をする必要はない

最後にひとこと。バイデン大統領のキーウ電撃訪問によって、微妙な立場に立たされているのが、われらが岸田文雄首相である。G7議長国として、ウクライナ戦争開戦から1年となる2月24日にリモート会議を呼び掛けたのはいいが、G7首脳でまだ一度もキーウを訪れていないのは岸田さんだけだ。

筆者としては、「無理をするな」と申し上げたい。日本外交の立ち位置は欧米とはおのずから違っている。直面している安全保障上の脅威も違う。そして国会は、まだ予算の審議中でもある(「ガーシー議員の懲罰」、などという情けない議論もしているけど)。

何より哀しいかな、この国は「秘密を守れない」国なのだ。ここはおそらく一朝一夕には変わるまい。広島サミットに向けて、肩に力が入るところかもしれないが、「日本外交は愚直で退屈」でいいではないか、と思うのである(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)。

次ページさて競馬コーナー。実力馬が集まる中山記念の勝ち馬は?
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