川崎・横浜の港を走る、知られざる「貨物線」の実力 石油から廃棄物まで運ぶ「神奈川臨海鉄道」

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一方、横浜港では戦後、海外貿易の増大にともない新たな埠頭の建設が進められ、1963年に山下埠頭、1970年には本牧埠頭が完成した。このうちの山下埠頭の貨物輸送を担うために、横浜港駅から山下埠頭駅まで延伸・開業したのが通称・山下埠頭線(国鉄)である。

神奈川臨海鉄道は国鉄から山下埠頭駅の業務運営を受託するなどし、これを横浜進出の足がかりとする。そして1969年10月には自社線として本牧線(根岸駅―横浜本牧駅―本牧埠頭駅間)を開業し、横浜への本格進出を果たした。

横浜本牧駅
横浜地区の拠点・横浜本牧駅全景(写真:神奈川臨海鉄道50年史より、2012年8月撮影)
神奈川臨海鉄道・横浜の路線図
神奈川臨海鉄道・横浜地区の路線図(画像:神奈川臨海鉄道会社案内より)

その後、鉄鋼生産の副原料である石灰石や輸出用自動車の輸送が盛んだった1980年代初頭に年間輸送量のピーク(400万トン)を迎えるが、間もなくして、国鉄末期のいわゆる「国鉄改革」にともなう輸送体系の再編に直面する。それまで国鉄の貨物輸送は操車場(ヤード)で貨車を組成し直しながら目的地へ運ぶヤード系輸送方式だったが、トラック輸送の台頭にともなう貨物輸送合理化の一環として、拠点間直行輸送を主とする輸送体系への見直しが行われ、結果、国鉄貨物の輸送量が減少した。

その影響で神奈川臨海鉄道の輸送量も減少し、対策として人員削減等の経営合理化や、不動産賃貸業への進出、JR貨物の情報システム開発への参画など多角化が進められた。

1987年の国鉄分割・民営化によりJR貨物グループの一員となり、2017年には水江線が廃止され、現在は川崎地区の千鳥線(営業距離:4.0km)、浮島線(同:3.9km)、横浜地区の本牧線(同:5.6km)の計3路線を営業している。また、自社線で行っている業務のほか、JR貨物からの駅業務等の受託も行っており、神奈川県内の貨物列車の入換作業がある駅のほとんどで、同社の社員が業務に携わっている。

最大の輸送品目は「石油」

神奈川臨海鉄道の輸送品目を見ると、開業以来、大きなウェイトを占めているのが石油であり、現在も年間の全輸送量(142万7000トン)のうち74%に当たる106万1000トン(2022年実績)を占めている。浮島線の輸送は、この石油を輸送する石油タンク列車が中心で、浮島の製油所で精製された石油は、浮島線・JR線を経由して北関東や長野県、福島県の各石油基地へと運ばれ、内陸部での石油製品の安定供給を担っている。

千鳥線は沿線の工場で製造された化成品を運ぶタンクコンテナの輸送がメイン。本牧線は海外向けに輸出する用紙などの紙製品や、輸入コーヒー豆をはじめとする農産・畜産品などを積載したコンテナ貨車を運行するほか、横浜市営地下鉄・東京メトロ・都営地下鉄などの甲種鉄道車両輸送にも利用されている。

1971年、横浜市営地下鉄1000系の甲種輸送
本牧線は甲種鉄道車両輸送での利用も多い。写真は1971年5月に撮影された、開業前の横浜市営地下鉄車両の輸送風景(写真:竹中洋一、しでんの学校提供)
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