「日立製車両」が欧州鉄道界進出に成功した背景 「国鉄と共同開発」からメーカー主導へ業界一変

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このような流れの中、設計や技術開発がそれまでの各国国鉄との共同からメーカー主導に切り替わったことで、従来は参入が困難だった日本メーカーにも事実上門戸が開かれた形となった。そして、その隙にうまく割って入ったのが日立製作所だったといえる。

とはいえ、日本の鉄道システムは「ガラパゴス」と呼ばれるほど、世界から見ると特殊な市場で、ヨーロッパのシステムとは似て非なるものであり、要求される性能や仕様もまったく異なる。

そんな中、日立が最初にイギリス市場へ入っていったのは正解だった。イギリスの鉄道はもともとヨーロッパ域内でも特殊で、線路幅以外の規格は大陸とまったく異なり、ほかの欧州系メーカーとスタートラインは同じということになる。加えて、日本と同様に機関車牽引列車よりも電車や気動車が主流で、比較的参入しやすい土壌が整っていた。

そして、最初から車両丸ごとではなく、まずは制御装置などの供給から始め、少しずつ実績を積み上げていった。これがその後の「ジャベリン」導入と、IEPプログラムによる都市間特急列車の大規模な受注を獲得するきっかけとなった。現地に組み立て工場を開設し、雇用を創出したこともプラスに働いた。

その後、大陸側の拠点としてイタリアのアンサルドブレダおよびアンサルドSTSを買収したことも、同社にとって大きな転機だった。生産拠点として大陸側に工場を置くことはもちろんだが、複雑怪奇なヨーロッパの認可取得や信号システムなど、今後本格的にヨーロッパ市場へ参入するとなったとき、こうしたノウハウは必要不可欠だったはずだ。

欧州企業買収に失敗の中国は苦戦

一方、同じくヨーロッパ市場への参入を目指す中国のCRRC(中国中車)は、地元メーカーの買収に失敗したことで今も認可取得に苦戦しており、鉄道会社から契約を破棄されるなど苦汁をなめている。

現在、日立製作所のグループ会社である日立レールは、2023年後半を目標にフランスのタレス社からグラウンド・トランスポーテーション・システムズ部門(GTS)の買収へ向け、欧州委員会の競争当局とEU内での買収の承認を得るための手続きを進めている。現在のアルストムやシーメンスがそうであったように、日立もグループ会社を含め現地の関連企業を買収し、着実に国際的鉄道メーカーとしてステップアップしている。

少し前まではシーメンス・アルストム・ボンバルディアの3社がビッグスリーと呼ばれ、鉄道メーカーの世界シェアで過半数を超えていたが、わずかな間に業界は大きく姿を変えた。業界2位だったこともあるボンバルディアですら、今はアルストムへ飲み込まれ、ヨーロッパの鉄道市場からその名が消えた。

他方、中国に誕生した巨大メーカーCRRCは規模では一躍業界のトップへと上り詰めたものの、ヨーロッパ市場では足跡を残せず、今も足踏み状態が続いている。弱肉強食のこの業界、いったい次にはどんな変化が待ち受けているのか。3年先ですら予想が付かない世界なのだ。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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