「日立製車両」が欧州鉄道界進出に成功した背景 「国鉄と共同開発」からメーカー主導へ業界一変

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部品供給やメンテナンスも大きな要素の1つだ。日本では一時期、ドイツのシーメンス製品が積極的に導入された時期があった。広島電鉄は、同社のトラム「コンビーノ」を導入、グリーンムーバー5000形として運行しており、最初の車両は大型貨物機で空輸されるなど、大きな話題となった。京急電鉄は同社製の制御装置を導入し、音階を奏でる走行音が広く一般にも知れ渡り、人気を呼んだ。

だが、その後はシーメンス製品を導入する鉄道は増えず、採用した会社もその後は日本製品を採用している。2019年には、シーメンスが日本の鉄道ビジネス市場から事実上撤退することになった。

同社が日本市場で成功できなかった理由は、工場を含む生産拠点を日本へ置かず、部品供給を本国からの輸送に頼るため時間がかかり、各社で十分な整備ができなかったことが大きい。広島電鉄は当初1編成を休車にして、ほかの編成に不具合があった場合に部品を供出していたが、現在は逆に運行している本数の方が少なくなってしまった。京急電鉄は、車両更新の際に日本製の制御装置へ換装、独特な走行音は聞かれなくなってしまった。

「部品取り」用の車両を発注する例も

実は、同様の事例はヨーロッパ内でも頻繁に起きている。もともとメーカーは、生産中の車両用を除いて部品を常時在庫していない。生産中止になった部品の入手は、現役車両から抜き取るしか方法がなくなるのだ。

対策として、鉄道会社によってはわざわざ部品供給用の予備車両を別に注文しているところもある。例えば、ドイツの最新型高速列車「ICE4」は、大きな不具合や事故で使用不能になった車両を差し替える必要が生じた際、中間車と異なり他の編成からの差し替えや抜き取りができない先頭車両単体が2両、予備車として納入されている。これらは予備車であると同時に、不具合が発生した際に部品を供給するのが目的の車両で、通常は営業運転で使用されることはない。

DB ICE4
スペアパーツ用の予備車も納入されたドイツのICE4(撮影:橋爪智之)

だが、21世紀に入る頃からヨーロッパの車両開発・生産の流れは一変してきた。技術の開発はメーカー主導へと移行、各国の鉄道会社はよりよい条件を提示したメーカーを選択するようになり、国の中で鉄道会社とメーカーががっちり手を組んで他国メーカーを寄せ付けないという時代は終わりを告げた。ヨーロッパの中でも高い技術力を誇り、大小多くの地元メーカーが存在したドイツですら、予算や技術的要件次第ではポーランドやチェコといった中欧製の車両や技術を導入する時代となった。

チェコ・シュコダ製電気機関車
チェコのシュコダ製機関車を導入したドイツ鉄道(撮影:橋爪智之)

車両の導入も、アフターサービスを含めた契約が主流となった。鉄道会社は車両保守をメーカーへ委託して、不具合があればメーカーが対処する形だ。万が一部品供給が滞って運行不能という状況にでも陥れば契約不履行となり、メーカー側に賠償責任が生じるだけでなく信頼も損なうことになる。メーカー側はそのような事態を避けるべく努力するため、部品が足りないといった心配は減る。

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