留萌本線「石狩沼田ー留萌」廃線、苦渋の決断の裏 3月末で終了、また一つ消えるJR北海道の路線

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ちなみにこの監督命令は、北海道新幹線が札幌開業を迎える2031年にJR北海道が経営自立できるよう徹底した経営努力を求めたもので、国・地方・関係者等による支援・協力の一方、事業範囲の見直しや業務運営の一層の効率化を命じたもの。地域との十分な協議を前提としながらも、やはり、鉄道よりも他の交通手段が適している線区については、新たなサービスへの転換を進めるとの方針を記している。バス等に切り替える方が効率的で持続可能と判断した点は北海道も同じであり、そのため赤線区の鉄道維持には国も道も補助や支援等はしないこととなり、一切は地元自治体に委ねられた。

こうした経緯から2018年5月に深川市、秩父別町、沼田町、留萌市による「JR留萌本線沿線自治体会議」が設置され、協議が重ねられた。これを経て、2022年7月21日にJR北海道が鉄道事業廃止に向けた提案を示す。そして8月末に開催された第9回JR留萌本線沿線自治体会議において、JR北海道と沿線2市2町の首長は廃止に関する合意書を取り交わすに至った――という。

さらに各種の報道や解説を読み取ると、JR北海道から沿線自治体の首長に対して路線廃止が非公式に伝えられたのは、留萌―増毛間がとくに問題視されていた2015年に遡るようだ。また、協議会の当初段階では沿線自治体はどことも廃止に反対しているが、正直なところの利用実態や、鉄道存続を図る場合にJRは地元の費用負担を求めたこともあり、2市2町には温度差があった。

留萌市は「地元負担による存続は財政的に困難であり、協議の進展が見込めない以上、今後のまちづくりに向けて議論を一歩進めていきたい」と2020年8月に表明し、以後一時的に協議会を離れた。留萌駅跡地は再開発し、市庁舎を移転し文化センターや体育館等の複合施設を建てる計画だ。これに対して残る1市2町は鉄道存続を求め、10月の協議では深川―石狩沼田もしくは恵比島までの区間を部分存続する案を訴えた。

ターニングポイントとなった2022年7月

2018年、JRが地元に示した資料では、全線維持の場合の営業収支は年額7億3200万円の赤字で、これに車両の補修や更新費を合わせて年間約9億円の地元負担を求めたという。部分存続でも折り返し設備の設置費用を要するほか石狩沼田までの維持でも年間3億4000万円の赤字見込みと示されていた。

以後の条件の交渉で額の変動はあり得るとしても、規模の小さな自治体が背負うには容易でない額であった。それでも留萌以外の1市2町がことさら鉄道存続を模索したのは、旭川や深川、滝川への通学利用があり、その足の確保が必須だったからである。留萌本線全体に並行するバス路線は沼田付近では大きく離れた北竜町を経由し、深川―沼田間のローカル路線は朝の通学には対応していないとの事情があった。

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