没後、残された側には残された後の時間が訪れる。ただ、江藤氏と違って、公也さんには息子たち家族がいるし、合成音声による楽曲制作の技術、それにしーらさんの音源があった。
手元にあるしーらさんの音源は3曲分。亡くなる9日前に自宅で録音した自訳詞の楽曲『その後の古時計』など、ボーカル音源だけのデータがあり、そこから音素を抽出していけば、“妻音源”ができあがり、新たな歌声を聴かせてもらえる。実際に制作していると、しーらさんが一緒にレコーディングに参加しているような感覚が身体を駆け巡った。
自分のボーカルを一緒に吹き込めばデュエット曲もできあがる。写真や動画があれば、また別の再現もできるだろう。冒頭にあるとおり、AI合成写真も実施した。ほかにも写真をベースにした3Dモデリングや古い写真の高解像度化など、新たな技術を貪欲に取り入れて、今も新たなしーらさんとの出会いを模索している。
「妻に許してもらったおまけ」
しかし、そうした没後の制作物としーらさん本人が残したものは、公也さんのなかで一線を画している。公也さんは言う。「(妻音源やAI合成などは)別個のもので、妻に許してもらったおまけみたいな感じでいます。『サラーマトの記』は妻の主張、考え方が詰まっているので、存在感が違います」。
デジタルで故人を「復活」させるサービスは2010年頃からいくつかリリースされている。VR空間で故人のアバターを生成したり、生前に残したチャットのやりとりから故人を再現したりするものがあり、技術面ではそれなりに高い水準に達しているようだ。節度を持った運用がなされるなら、そう遠くない未来に多くの人に求められるかもしれない。
それでもやはり、本人が残した声とは別個の存在であり、それを埋め合わせることは難しいだろう。公也さんは「サラーマトの記」としーらさんのTwitterやFacebook、mixiのページ、はてなブログを今でも常時管理している。失ってしまえば二度と得られないと骨身に染みているからだ。
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