トヨタ、「数字」に触れない投資家向け説明会 初の個人投資家向け説明会で語られたこと
「いいクルマ作りや人材育成を柱とした地道な取り組みが、結果として販売台数や売上高、営業利益、ROE(株主資本利益率)といった経営指標の向上につながっていくものと信じている」――。
トヨタ自動車の豊田章男社長が大きな身振り手振りを交えて株主に語りかけたのは、具体的な「数字」ではなく「理念」だった。トップ自らが出席する個人投資家向けの説明会を同社が催すのは今回が初めて。名古屋市内の会場には投資家だけでなく愛知県内の学生などを含めて約3500人が訪れた。開催理由について会社側は、「規模が大きくなっている中で、トヨタがわかりにくくなっている。長期的に応援していただけるように個人投資家に語りかけたい」と説明する。
2015年3月期も最高益を更新する見通しで、日本企業としては営業利益3兆円という未踏の水準も見えてきており、業績の好調さは明らか。そうした中での”わかりにくさ”とは、社長がメッセージとして打ち出している「意志ある踊り場」の持つ意味かもしれない。
収益は踊り場ではない
「今期は意志を持った踊り場だ」――。
昨年5月の決算会見で、豊田章男社長はこう述べた。2014年3月期はリーマンショック前に記録した最高益を更新したが、先行きの見通しに対して終始慎重な姿勢を崩さなかった。
トヨタが成長戦略を加速させたのは1990年代の後半から。世界各地で工場を立ち上げ、2000年から2007年までに年平均の生産台数を50万伸びた。だが、決算会見で豊田社長は「会社が急成長した裏側で、成長スピードに人材育成が追いつかず、従業員や関係者の皆様の頑張りに依存した無理な拡大を重ねた。リーマンショックによる赤字転落や、(米国での)大規模リコール問題もそうした中で起きた」と、率直に振り返っている。
過去の反省から生まれた「意志ある踊り場」という考え方について、今回の個人投資家向け説明会では、「販売台数や収益が踊り場にあるということではなく、持続的に成長するためにトヨタで働くすべての人の意識を変え、仕事のやり方を大きく見直すための期間として踊り場が必要」と説明。具体的な利益目標などには言及せず、現在取り組んでいる開発や生産の改革、人材育成、経営への思いなどを語った。
また、個人投資家と”初顔合わせ”とあってか、豊田社長は自己紹介として自身の幼少期の写真まで披露。また、米投資銀行を経てトヨタ入社した日々を、「(創業家の御曹司であることに対する)先入観と戦いながら、自分は何者なのか問い続ける会社生活だった」と振り返った。
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