「幸福な人」と「不幸な人」を分けるのは何なのか 幸福になることよりも「不幸」に気をつけよ

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最も厳密な意味での幸福は、強くせき止められていた欲求が急に満足させられるときに生まれるものであり、本来挿話的な現象としてしか現われないものである。快感原則が望んでいた状況も長続きすると、気の抜けた快適さをもたらすにすぎないのである。私たちは、激しい対照(コントラスト)だけに快感を覚えるものであり、快を覚える状況はごくわずかのあいだしか享受できないものなのである。

このように、人間が幸福になる可能性というものは、私たちの心的な構成のために制約をうけているのだ。ところが、不幸を経験するのは、はるかにたやすいことなのである(『文化への不満』)。

「幸福」よりも「不幸の回避」

フロイトの考えによれば、私たちにとって「幸福」は一瞬だけしか訪れず、むしろ不幸になるほうがたやすいようです。とすれば、私たちが求めるべきは、「幸福」よりも「不幸の回避」かもしれません。

しかし、こう考えると、人生が味気なくなってしまいそうです。破滅だとわかっていても、一瞬に賭ける人が少なくないのは、そのためかもしれません。

岡本 裕一朗 玉川大学 名誉教授

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おかもと・ゆういちろう / Yuichiro Okamoto

1954年福岡県生まれ。九州大学大学院文学研究科哲学・倫理学専攻修了。博士(文学)。九州大学助手、玉川大学文学部教授を経て、2019年より現職。西洋の近現代哲学を専門とするが興味関心は幅広く、哲学とテクノロジーの領域横断的な研究をしている。著書『いま世界の哲学者が考えていること』(ダイヤモンド社)は、21世紀に至る現代の哲学者の思考をまとめあげベストセラーとなった。ほかの著書に『フランス現代思想史』(中公新書)、『12歳からの現代思想』(ちくま新書)、『モノ・サピエンス』(光文社新書)、『ヘーゲルと現代思想の臨界』(ナカニシヤ出版)など多数。

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