ネット通販が「送料無料」を売りにする驚きの理由 消費者心理をうまく利用した印象操作のすごさ

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たとえば、単に「成功者になる」よりも、「キャリアの機会を開拓する」のほうがいい。同様に、「道徳的に汚れのない人間になる」よりも、「教会に通う」のほうがいい。

成功者になりたい、道徳的に汚れのない人間になりたい、と言うだけでは、それを実現させる明確な方法や具体的な手段がないので、これらの目標を掲げることに何の効力も生じない。

A地点からB地点に到達するはっきりした道のりがなければ、到達に向けて歩き出すこともなく、ただただ目的地をぼんやり夢想するだけだ。

人は夢想のなかで、目標を達成したら人生はどんなふうになるだろう、と思い描く。見事な成績で卒業したら、大会で優勝したら、結婚式の日を迎えたら、どんなにすてきな気持ちがするだろう、と。

だが、夢想は行動を引き出さない。首席で卒業することを夢想しても、いっそう勉強に熱を入れたりはしない。5キロマラソンの1位入賞を夢想しても、練習の回数は増えない。結婚式を夢想したとしても、じゃあデートの回数を増やすかというと、そんな様子もない。

「ちょうどよい抽象度」で考える

心理学者ガブリエル・エッティンゲンとトーマス・ワッデンが、実際にこれを調べる研究をしている。

減量プログラムの開始時点で、被験者には何キロ痩せると考えられるか尋ね(予測)、何キロ痩せたらいいなと思っているかも尋ねた(夢想)。

予測の数字が大きかった被験者は、予測の数字が小さかった被験者と比べて1年後には大幅に減量できていたのに対し、夢想の数字が大きかった被験者は、そうではなかったことが確認された。たくさん痩せたいな、と願望に浸っていた被験者は、むしろ減量できていなかった。

夢想は心地よいかもしれないが、モチベーションツールとしては、ほとんど役に立たない。目標が抽象的すぎると、それは夢想になってしまい、行動を伴いにくくなるのだ。

だが、ちょうどよい抽象度で考えることができれば、到達のために必要な行動を見失うことなく、目指す意図を明確にできる(「幸せな気分になる」ではなく、「メンタルヘルスを整える」)。何から着手すべきか判断もできる(たとえば、セラピーを受け始める)。現在の自分の状態と、なりたい自分の状態を比較できるので、行動計画を立てて現在から目標までの線を引きやすくなる。

(翻訳:上原裕美子)

アイエレット・フィッシュバック 心理学者/シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネス教授

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Ayelet Fishbach

シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスの受賞歴のある心理学者で、モチベーションサイエンス学会の元会長。100以上の科学論文を多くの心理学やビジネスの学会誌に発表している。人間のモチベーションについての革新的な研究により、実験社会心理学会の最高論文賞や、キャリア・トラジェクトリー・アワード、フルブライト教育基金賞などを受賞。フィッシュバック博士の科学的な発見は、『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォールストリート・ジャーナル』、CNN、NPRなどのメディアで頻繁に取り上げられている。

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