野口聡一さん解説、ロケットの燃料の意外な実態 時代ごとの社会的な要求を反映して開発は進む

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ケロシンは優れたロケット燃料ですが、さらに大きな推力を得られるロケット燃料があります。

私が初めて搭乗した宇宙船でもあるアメリカのスペースシャトルは、液体水素と液体酸素を推進剤とする衛星打ち上げロケットの一種として、ハッブル宇宙望遠鏡の打ち上げなどで大活躍しています。液体酸素、液体水素の組み合わせはロケットの燃費性能とも言われる「比推力」の点でケロシン燃料より優れ、日本のH-IIAロケットも利用しています。

そして現在、液体水素H-IIAの後継機となる新たな日本の主力ロケット「H3」が2023年2月12日に種子島宇宙センターで初打ち上げを迎えようとしています。

社会的な要求を反映し開発が進められるロケット

ロケットの推進剤は性能と扱いやすさ、コストのトレードオフで決まります。液体水素と液体酸素の組み合わせは、比推力や環境性能(なにしろ水素と酸素ですから、燃えた後に出てくるのは水蒸気です)に優れていますが、水素の製造に電力を必要とする、軽い水素は液化してタンクに保存しておくことが大変……などの難しい点もあります。

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そこで、推進力と扱いやすさの面でケロシンと液体水素の中間に位置する液化天然ガス(LNG)を使ったロケット燃料も注目されるようになってきました。スペースXが開発中で2023年にも軌道への打ち上げを目指す超大型ロケット「スターシップ」がメタン、つまりLNGを使用する「ラプター」というエンジンを搭載しています。

また、ISTの衛星打ち上げロケット「ZERO」も液化メタンを採用し、2022年の夏にエンジンの一部で燃焼試験を成功させました。ZEROの燃料に使われる液化メタンには、北海道の畜産農家から出た牛糞を材料とするメタンを取り入れる計画だといいます。

世代を越えて進化していく世界のロケットは、時代ごとの社会的な要求を反映して開発が進められているのです。

野口 聡一 宇宙飛行士

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のぐち そういち / Soichi Noguchi

博士(学術)。1996年5月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選抜、同年6月NASDA入社。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。2009年、ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。2020年、日本人で初めて、民間スペースX社の宇宙船に搭乗、約5か月半、ISSに滞在した。4度目の船外活動(EVA)や、「きぼう」日本実験棟における様々なミッションを実施し、2021年5月、地球へ帰還。主な著書に『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』アスコム刊がある。

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