10年におよぶ異次元緩和の末、混迷を深める日銀を、有力OBはどうみたか。
変わったのはムードだけ
──異次元緩和に突き進んだ、この10年間の成果と副作用をどう評価していますか。
早川 成果の点では、景気に対し悲観的だった国民の心理が改善したことが大きかった。2013年以前は、震災影響が残り、市場は円高、株安という状況だった。
それが異次元緩和以降、円安、株高へと向かって何となく国民に歓迎ムードが生まれた。ただ、マーケットや心理面での効果があった一方、リアルの経済指標では大した成果はなかった。アベノミクスが完全雇用を実現したといわれるが、当時は団塊世代がちょうど65歳を迎える時期。労働投入ベースではそれほど雇用は増えていない。
門間 異次元緩和がタイミングに恵まれたのは確かだ。欧州債務危機が落ち着いた12年後半から世界経済は回復しており、政権と日銀総裁の交代でその波に乗った。
ただ、変わったのは空気だけで実体経済はあまり変わらなかった。アベノミクス景気は戦後最低の成長率だった。物価目標2%も達成できなかった。
前田 日銀が2%を目指し緩和すれば経済はすべてよくなるみたいな見方が以前あったが、結局はしっかり成長力を地道に高めていく努力は必要という認識が浸透したのはよかった。ただ、今はそこから成長戦略よりも財政のほうに傾いているので、いい方向に向かっているかどうかはわからないが。
早川 副作用として、いちばんの問題は財政規律が弛緩したこと。とりわけコロナ禍によって、政治家の間でも、日銀が金融緩和をしているのだからいくらでも国が支出できるという雰囲気が生まれた。
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