経済学者・翁邦雄氏に10年間にわたる黒田日銀の総括を聞いた。
とことんやったがダメだった
――この10年間の日銀の異次元緩和の成果と課題をどう評価しますか。
“成果”は、逆説的だが、金融政策だけで物価は上がらないというのがわかったことだろう。金融緩和で物価が上がるか否かの長い水掛け論が続いた後、実際にとことんやってみたがダメだったということだ。
この10年間で日本経済は衰退してしまった。どうやってこの長期停滞から抜け出すかが課題だ。今の日本銀行がやっているYCC(イールドカーブ・コントロール)は金融市場の「ロックダウン」に近い状況で、ここからどう抜け出すのかも課題になる。
――ロックダウンというのはユニークな表現です。
中国ではゼロコロナ政策のもと、ロックダウンで人々の動きを止めることでコロナの感染拡大を防いだ。当初は成功したかに見えたが、コロナへの耐性強化といった課題は先送りされてきたためロックダウンを解けば感染が急拡大してしまう状況になった。
これと似ているのがYCCによる金利の制御だ。YCCという政策の下で日銀は、政策金利である短期金利だけではなく、本来市場が決めるはずの10年物の国債金利まで固定している。短期と10年物の長期金利を超低位のままロックダウンしてきたに等しい。経済活動の活性化は達成されず、逆に生産性の低い企業の温存など、弱い経済を作り出した。長期停滞をもたらす本質的な課題への取り組みは先送りにされた。
市場経済にとって重要な「価格機能」を金利が果たせなくなったため、経済に異変が起きても金融市場からのシグナルが出なくなっているのは大問題だ。
――異次元緩和は金融市場に禍根を残したということでしょうか。
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