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日銀の黒田総裁はなぜ「大総裁」になり損ねたのか 岩田規久男氏「増税容認発言で自分の首絞めた」

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日銀副総裁を務めた経済学者・岩田規久男氏に、10年間にわたる黒田日銀の総括を聞いた。

岩田氏は「金融政策だけでここまでできたのは『よくぞ頑張った』と評価してほしい」と語る(撮影:大澤誠)

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1月16日発売の『週刊東洋経済』1月21日号では「日銀 宴の終焉」を特集(アマゾンでの予約・購入はこちら)。黒田日銀が推し進めた「異次元緩和」という10年の宴は終わり、金融政策は正常化へ舵を切ろうとしている。この壮大な社会実験は何をもたらしたのか。4月に発足する新体制はどこへ向かうのか。マーケットは、日本経済は、これからどうなるのか。
リフレ派の首領で、黒田総裁下で副総裁を務めた岩田規久男氏。長年、金融政策の論壇を牽引したレジェンド経済学者に、黒田日銀10年の総括を聞いた(リフレ政策に批判の論陣を張り、岩田氏と時に激しく火花を散らした翁邦雄氏のインタビューはこちら)。

就任から1年間は想定通りに進んだが…

――黒田体制の1期目の5年を日銀副総裁として務めました。

私が副総裁になった時、執行部以外の政策委員は全員が白川方明・前日銀総裁時代の人だった。彼らは私とは全然違う考えなので多数派を取れるか心配していた。ただフタを開けてみると、全員我々の政策に賛成だった。

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就任から1年間は想定通りに進んだ。予想インフレ率も上がり、円安になり、株価も上がり、物価も上がって、あのままで行けば2014年の夏頃にはインフレ目標2%を達成していただろう。それに水を差したのが2014年4月の消費増税だった。予想インフレ率が低下を始め、消費も弱まった。さらに原油大幅安も加わったので物価上昇率に勢いがなくなった。

――アベノミクスの期間中、実質賃金は下がっています。

ほとんどの人は『毎月勤労統計調査』を見て「実質賃金が下がった」と言っている。しかし、企業の支払う社会保障負担を考慮した「雇用者報酬」で見れば実質賃金はきちんと上がっている。人々は企業の社会保障負担を含まない手取りでみるから、期待したほど上がらなかったと思ってしまう。

アベノミクスで最も改善したのは雇用だ。雇用数が正規・非正規ともに増えている。パートタイム労働者は「賃金弾力性」が高く、賃金が高いと働き始めるが、賃金が安いと働かない人が多い。アベノミクスで実質賃金が上がったことで彼ら彼女らが働き始めたため、パートタイム労働者が増えた。女性だけでなく、若者も高齢者もパートタイムで働いている人は自発的にパートで働いている人が少なくない。その意味で雇用は改善している。

一方で、平均賃金が下がったようにみえるのは、正規社員もパートも実質賃金は上がっているが、両者を一緒にして平均賃金を計算するからだ。正規社員とパートなどの非正規社員を一緒にして平均賃金を議論することがそもそも間違いのもとだ。厚労省の『毎月勤労統計調査』の平均賃金統計はミスリーディングな情報で、メディアもそのことを理解すべきだ。

――2%の物価上昇率目標を「2年」で実現すると早々に掲げました。

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