無意識に「食べ散らかす」私たちの食を変える方法 料理研究家・枝元なほみさんが考える食べ物の生かし方

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昔、働いていた無国籍レストランのオーナーのまるちゃんも、私が師とあおいでいた料理研究家の阿部なをさん(故人)も、食べ物を「捨てない」人たちでした。私自身がその影響を受けてきたことは、間違いありません。ただ、ときどき、ずーっと重荷を背負っている気がするのも事実です。この残りもの、どうしよう、最後まで面倒見てあげなくちゃとは思うけれど……ああ、片付かない。

「生かす」「捨てる」の見極めもロスをなくす

例えばおからを作ろうというとき、大概の人は「だしがいるのか……まあいいや、めんつゆで」という風に考えると思いますが、なをさんは、煮魚を煮て、その汁がすごくおいしかったからおからを炊きましょう、という人でした。そのおからを食べさせてもらったことがありますが、本当においしくて。捨てないってそういうことだよな、と思ったんです。

食材を使い切ることもいいですが、それを「重荷にしない」ことも大事(撮影:朝日新聞出版 写真映像部 松永卓也)

同じように、ゆで豚やゆで鶏、薄切りの豚しゃぶなども、ゆで汁を生かしてあげることができます。ゆで終わったあとの汁を、1回沸かしてアクを取ったら、すごくきれいなスープがとれる。その旨味を「いいもんだな」と思うこと、そこにかつおのだしもちょっと足して……という風に1つひとつていねいに面倒を見てあげることが、ロスをなくしていくことにつながります。

心の師匠、なをさんの「醤油塩辛」はすごくおいしいものでした。普通の塩辛は、いかのわたを塩漬けにしたものでいかの身を和えますが、なをさんは、醤油漬けにするんですよ。味がしっかりして、醤油のまろみや旨味も加わって、私はその塩辛が大好きでした。

わたを漬けたあとに残った醤油は、「わたのアクや生臭みが出ているので、思い切って捨てなさい」と、なをさんは言いました。私なんだかものすごくほっとしたのを覚えています。捨てたほうがいいものもあるんだ!と。

私は、食べ物は最後まで面倒見なければ、と思ってついやりすぎ、結局まずくなって捨てるしかない……みたいなことをときどきやらかしますが、それならば、すっきり捨ててしまったほうが、使った食材も手間も無駄にならない。見極めが大事なんですね。

『捨てない未来──キッチンから、ゆるく、おいしく、フードロスを打ち返す』(朝日新聞出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

フードロス問題は、各々がちっちゃいところ、ちっちゃいところへ入っていく性質がどうしてもあるように思うんです。

捨てること、ロスを出してしまうことに毎回痛みが伴い、明るさが失われていくと、これ捨てていいの? 無駄にしてるんじゃないの?と神経質にチェックして自分を追い詰めていくことになったり。ともすれば、自分を追い詰めたその同じ刃を他人に向けることにもなったり。

それではどう考えても広がっていきにくい。友情にひびが入るなんてことにもなり兼ねないし、なんとも苦しい。

輪を広げていくためには、大きな問題への視線を持ちつつ、意外に楽しいからやってみれば?とか、その知恵すばらしい!とかボトム同士で楽しみながら、システムを変えるところまで元気を積み上げる。きっとそんなパワーが必要なんですよね。

(構成/保田さえ子)

枝元 なほみ 料理研究家

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えだもと なほみ / Nahomi Edamoto

横浜市生まれ。劇団の役者兼料理主任、無国籍レストランのシェフなどを経て、料理研究家として活躍。一方で、農業支援活動団体である一般社団法人「チームむかご」を立ち上げたり、NPO法人「ビッグイシュー基金」の共同代表も務め、雑誌「ビッグイシュー日本版」では連載も。2020年に、フードロスと貧困問題の解決にチャレンジするため、営業時間終了直前に売り切れなかったパンを引き取って、同雑誌の販売員や、そのほか仕事がない人たちが販売する仕組みを実践する「夜のパン屋さん」をスタートする。また、子どもたちの給食を有機食材にするための活動にも心血を注いでいる。著書多数。

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