キーエンス出身者が解説「無駄と付加価値」の違い 顧客ニーズとずれた高スペック商品が溢れる訳
「価値とは何か?」が理解されていない状態で作られている商品・サービス(または行われている仕事)がたくさんあります。「価値とは何か?」を理解せずに、ムダなことに開発費や人件費、マーケティング費をかけていると、「赤字確定(少なくとも大幅利益減)」になってしまうでしょう。
「ムダなものにお金をかけるような例はあまりないのでは」と思うかもしれませんが、実はあなたの身の回りにたくさんあります。次に、実際にあった「ムダ」の例を挙げましょう。
顧客の求める価値とズレると高スペックでも売れない
かつて、ある大手家電メーカーが、「洗浄力、ナンバー1」と謳った洗濯機を開発しました。そのメーカーは特長の第一ポイントとして「洗浄力」を挙げ、商品ホームページの大部分を使って洗浄力に関する情報を載せ、大々的に広告したのです。
ここで質問なのですが、あなたは最近、「洗濯機の洗浄力」に不満を感じたことがありますか? または最近、周囲で「洗濯機の洗浄力」に困っているという悩みを聞いたことがありますか?
私は「ノー」です。妻に聞いてみても、答えは「ノー」でした。これまでセミナーや研修、講演で3000人以上に同じ質問をしましたが、ほとんどの人が「ノー」と答えています。
顧客のニーズは「顧客の困りごと」から生まれます。「ニーズが叶う」と思うから、お客様はその商品やサービスを買います。それを使ってニーズが叶うことが、「役に立つ」ということなのです。この高スペックの洗濯機の場合、「洗浄力」は「顧客の困りごと」ではなく、「ニーズが叶う」ことでもなく、「役に立つ」ことでもなかったのです。
ちなみに、洗浄力が求められるのは「洗剤」です。現代の洗濯機に求められるのは、洗浄力よりも「洗濯・乾燥の容量」「乾燥機能」「運転音が静か」「節水・節電の機能」「部屋やライフスタイルに合わせたデザイン」などです。ある一定の性能レベルを超えれば、「洗濯機の洗浄力」には価値がないのです。このメーカーは「顧客が本当に求めている価値」を見誤って、ムダな高機能を搭載した洗濯機を開発してしまったわけです。
ではなぜ、こんな高スペックの洗濯機を作ってしまったのでしょうか? おそらくユーザーが本当に求めている価値や、メーカーとして提供すべき付加価値を深く考えず、「作れたから作った」、もしくは「開発者のエゴ」が原因だったのではないかと思います。
顧客が価値を感じない高スペックの商品を企画すると、次々と悲劇が起こります。まず、高スペックを実現するための生産コストがかかります。もちろん高スペックですから、原価も工場での工程も増えます。そして、マーケティング担当に、そのスペックを高らかに謳うように要求してしまいます。
テレビCM、ウェブ、チラシ、POPなど、さまざまなメディアや販促ツールでそのスペックが第一優先で謳われます。さらに販売店のスタッフも、お客様に対してそのスペックを推すように指示を受けるわけです。そんな商品が実際に発売され店頭に並んだら、現場の消費者はどんな反応をするでしょうか?
ふーん(価値を感じない) → 買わないor価格の値下げを要求するor他商品を買う
という反応になるでしょう。
開発費用も、生産原価や工場人件費のアップも、マーケティングにかかった費用も、「すべてムダ!」になってしまうのです。生産性向上どころか、このような商品ばかりを作り続けていると、赤字まっしぐらです。
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