英国の展望車「デボン・ベル」、波乱万丈の1世紀 誕生時は「救急車」、米国巡業後に帰国できず

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だが、展望車は人々の尽力によって救われた。ビル所有者は14号を英国の篤志家に寄贈。そして輸送費6万ポンド(約1000万円)を募金などで調達し、2007年1月にはスワネージ鉄道に所有権が移った。展望車は船に積み込まれて約40年を過ごしたアメリカを離れ、パナマ運河を通り、同年中にサウサンプトン港に到着。スワネージ鉄道はすぐさま再生作業に着手し、パブ部分もオリジナルに近い形にまで戻すことができた。

スワネージ鉄道での運行開始は2008年に実現。さらに2019年初頭にはフライング・スコッツマンが同鉄道に乗り入れ、50年ぶりの再会を果たした。フライング・スコッツマンが展望車14号を連結した列車を牽引する一幕もあったという。

では、実際に「デボン・ベル」展望車に乗るにはどうしたらいいのだろうか。スワネージ鉄道は毎日運行しておらず、とくに冬場は完全運休の日も多い。展望車はSL牽引の列車にはたいがい連結されているが、閑散時にはSLの代わりにディーゼルカー編成で走る日もあり、そうなると展望車はお休みだ。なお、特別プログラムとして、プルマン時代のサービスを彷彿させるランチ会やアフターヌーンティー会が催されることがある。その際は一般客は一時的に利用不可能となる。

保存鉄道は廃線活用の道?

SLなどの機関車が客車を引っ張る列車は、展望車でなくても列車の最後部から流れゆく線路と後方に広がる風景を眺める楽しみがある。これは両端に運転台がある電車や気動車ではなかなか難しい。保存鉄道に乗ったときこそ、普段の列車旅では体験できない楽しみを味わってみたい。イギリスの旧型客車は、ドアは手動で開閉、クーラーは皆無ながら、リビングルームに置かれたソファーのようなふかふかの椅子に座っての汽車旅が体験できる。

イギリスには現在、さまざまな形の保存鉄道が全土に200以上存在する。1951年、ウェールズのスノードニア国立公園を走るタリスリン鉄道が世界初の保存鉄道として認められたが、それから70年余りを経て、地元のボランティアに支えられる形が定着し、どこも地域の観光資源として有益なものとして認知されている。

イギリスでは1960年代、「ビーチングの斧」と呼ばれる不採算路線の機械的な廃止、存続路線では各駅停車と小駅の廃止が提言され、これを受け10年間で鉄道路線の4分の1が廃止の憂き目にあった。保存鉄道はこれを古い形のままで残しているものだ。一般の鉄道路線と異なる法規を適用、最高時速を40kmに抑えたり、車両や線路設備の要求条件を緩和したりするなどで、小さな予算でも維持できる仕組みづくりを政府自らが提唱。保存活動の定着に力を貸している。

日本では目下、多くの魅力ある路線が存続の岐路に立たされている。移動インフラとしての役割を終えても、観光資源として残せる「英国の保存鉄道」のスキームはきっと日本で何かしらの参考になるに違いない。

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さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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