日本人は「スーパーヨット」誘致の効果を知らない 大型クルーズ船の寄港で観光地が儲からない現実

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一方、大型クルーズ船は前述したように立ち寄った観光地への経済波及効果が意外にも小さい。

「寄港地が船の拠点港でない限り、食料も買わないし、燃料も買わないので、それほど大きな消費額にはならない」

クルーズ船の中でも、ハイクラスの船の誘致と組み合わせることで、地域への負荷はある程度軽減できる、とみている。

海外はスケールもスピード感もはるか上をいく

世界のスーパーヨットの市場規模は実際、どれほどのものなのか。豪華ヨットが並ぶ風景が身近にないだけに、日本人にはなかなか想像しにくい。

稲葉氏が取材の最後に語った次のようなエピソードからも、日本が想定しきれていない、海外のマリン産業の存在感の大きさが伝わってくる。

「フロリダで最低賃金のバイトをしていた僕を拾って、マリーナの設計の仕事をさせてくれた恩師は、そこのオーナーでした。

彼は数億円でマリーナを購入し、20億~30億円投資をしてスーパーヨットの港を整備したのですが、そのマリーナは数年後、投資ファンドに150億円ほどで売却されました。そしてさらに数年後、それがまた別の事業会社に約350億円で売却されています」

「つまり、マリン産業はそれくらいキャッシュフローが生み出せるビジネスだと見て、民間の投資が動いている。

日本にはまだそんな港もヨットもありませんが、鶏が先か、卵が先か。地域を豊かにするためには、両方ともやっていかないといけない。スーパーヨットには、街の風紀をも変えていく力があります」

横浜にあるSYL社のオフィスには、新たな市場開拓に関心を寄せる全国各地の地方議員や行政関係者らが、最新の情報や港湾整備のアドバイスを求めて頻繁に訪れるようになった。

稲葉氏が世界のスーパーヨット市場の存在を日本に最初に紹介した7年前に比べると、隔世の感があるという。

だが、オーストラリアやカリブ海・地中海諸国など国を挙げて港湾地域の開発や造船・保守施設への投資、技術者育成に力を注ぐ海外の動きは、スケールでもスピード感でも、日本の先の先、はるか上をいく。

目先の需要に合わせたインフラ開発か、それとも需要を喚起するための先行的な開発か。少子化に歯止めがかからない中、地方経済の減退は加速し、安い労働力の提供で、人心も自然も荒廃していく。

海からやってくる新たな産業を、秩序を守りながらわが物にできるか。スーパーヨット産業の育成は、「量から質への転換」を掲げ始めた観光立国ニッポンが、アフターコロナで試される仕事の1つになるだろう。

座安 あきの Polestar Communications社長

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ざやす あきの / Akino Zayasu

1978年生まれ、沖縄県出身。2006年沖縄タイムス入社。編集局政経部、社会部を経て09年に朝日新聞福岡本部・経済部出向。出産育休後、保育や学童、労働、障がい者雇用問題などの取材を担当。連載「『働く』を考える」が貧困ジャーナリズム大賞2017特別賞受賞。20年3月末に新聞社を退職し、現在、Polestar Communications社長、Polestar Okinawa Gateway取締役広報戦略支援室長。執筆取材活動を通じ、沖縄を介してアジア展開を目指す企業の人的ネットワークの構築や商品・ブランド開発を支援している。

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