日本人は「スーパーヨット」誘致の効果を知らない 大型クルーズ船の寄港で観光地が儲からない現実
だが、コロナ禍の直撃は、それまで蓋をしてきた足元の課題に真正面から向き合うチャンスととらえ、根底から受け入れのあり方を問い直そうと声を上げ始めた。
数千人単位の外国人観光客が下船し、一気に街に繰り出していった島で何が起きたのか。「思い出してほしい」と西里氏はいう。
大勢の乗客を乗せて寄港する大型クルーズ船では、乗客は船内で食事を済ませることが多く、寄港した先での消費といえば、2次交通の利用や街歩きの観光が中心となる。
港から団体客の送迎にあたったタクシーやバスの2次交通事業者は確かに経営面で潤った。だが、滞在する観光客や多くの地元住民の移動手段が奪われることになった。最も期待された特産品や飲食の需要は乏しく、客は一部の大手家電量販店やスーパー、ドラッグストアに集中し、「直接的な利益は島にはほとんど残らなかったのではないか」とみる。
むしろ、許容量を大きく超えた人流によって、「荒らされた島のイメージが発信されたことによるマイナスの影響のほうが目立ってしまった」としたうえで、こう訴えた。
「宮古島では、これまでのようなペースで大型クルーズ船を受け入れることはできないと認めたうえで、どう対策をとるのか、基準がどうあるべきか、議論が絶対に必要です」
空と海の誘客が同時に拡大
沖縄には、那覇の2つの港、本部、宮古、石垣に計5カ所のクルーズ専用バースがある。2019年には沖縄全体のクルーズ船寄港回数は581回を記録し、そのうち宮古島への寄港は、那覇、博多、横浜、長崎、石垣に次いで全国6位となる過去最高の147回に達した。
総工費149億円をかけ整備したクルーズ専用バースには2023年、すでに約150回の寄港が予定されている。
宮古島で特に大型クルーズの増加による負の影響がささやかれるようになった背景には、人口わずか5万人の島で航空路線の拡充が同時に進んできたことがある。
客室数が少なく、空港の規模が不十分だった頃は、一度に大勢の観光客を運ぶ大型ホテルのようなクルーズ船の寄港はもろ手を挙げて歓迎された。
だが、状況は確実に変化している。空路と海路、両方の拡大路線は、島本来の魅力を毀損しかねない。沖縄県も、県全体のクルーズ振興を見直し、「お断りゼロ」から「お断りあり」の可能性に言及し始めた。
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