中国、イランで相次いだ権威主義国家の揺らぎ SNSとZ世代による抗議運動は何を意味するか

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この事件が明るみになると、イラン全土で女性の差別撤廃、人権を求めるデモが繰り広げられた。

抗議の動きはカタールで開催されたワールドカップ・サッカーの大会にも波及した。11月21日のイングランドとの試合前の国歌斉唱でイラン選手は全員が沈黙を貫き、観客席ではデモを支援する人たちが「女性 生命 自由」と書いた幕をかざしてイラン政府批判の意思を示していた。

世界が注目するワールドカップという場を利用して発信するという彼らの狙いは功を奏したようで、多くのメディアが試合とともにイランの抱える問題を報じた。

デモに対するイラン当局の対応の厳しさは中国に勝るとも劣らない。当局の弾圧によってすでに400人以上が死亡し、1万数千人が拘束されたという。国歌斉唱を拒絶したサッカーの代表選手らも帰国後、厳しい処罰を受けるだろうといわれている。

イラン政府も突如、道徳警察を廃止

ところがそのイラン政府が12月に入って突然、悪名高い道徳警察の廃止を決めた。アミニさんの事件以後、街角で道徳警察の活動を見かけることはなくなったといわれていたが、一気に組織の廃止という対応は意外な判断だった。

中国は共産党一党支配、イランはイスラム教最高指導者が支配と、共に独裁的性格の強い権威主義国家である。統治を安定させるためには最高権力者の権威は重要であり、これまでは自らの非を認めて政策を転換するようなことは考えられなかった。そして政府批判の動きに対しては力をもって徹底的に弾圧し封じ込めてきた。

ところが今回、両国がともに国民の抗議に応じるかのように、部分的ではあるが政策転換に踏み切った。そこから盤石に見える両国の国家体制が持つ脆弱性が浮かんでくる。

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