中国、イランで相次いだ権威主義国家の揺らぎ SNSとZ世代による抗議運動は何を意味するか

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独裁的国家の主要政策が硬直的であることは言うまでもない。権力が1人の人間に集中しているため、一度決めると矛盾や問題が起きても簡単に修正できない。下にいる者は異論を提起しにくい。その結果、重要政策が時代や状況の変化に対応する柔軟性を欠いてしまうと、国民との間で摩擦や対立が生まれてしまう。

そもそもこうした統治システムは、政権と国民との乖離を回避できない構造になっている。中国ではコロナの感染が拡大した上海市を2カ月もロックダウンしたため市民の激しい批判の対象となった李強・上海市共産党書記が党大会で次期首相と目される党のナンバー2に抜擢された。

抗議運動は政権との乖離が限界に達した帰結

習近平氏に近いというのが抜擢の理由とされている。この人事1つをとってみても党中枢と国民の意識が大きくかけ離れている。政権と国民の乖離が限界に達すると必然的に政府批判の大衆的行動に転じていくだろう。

一方で急速に発展したネット空間の拡大が大衆行動の変化をもたらしている。今回の中国とイランのデモの中心にはインターネットでつながった若者の存在がある。彼らは当局の規制をかいくぐって内外の情報を集め、SNSによって短時間で情報を拡散させる。

サッカーの盛んな中国では、マスクをしていない観客であふれるワールドカップの競技場の光景を多くの国民が目にした。イランの若者は自由な服装や行動をする他国の女性の姿を目にしてあこがれる。

そして彼らはなにかをきっかけに容易に集団で動く。それがZ世代による政府批判運動の特徴であろう。ただネットでつながる大衆行動は特定の中心人物がいるわけでもなく、仲間同士の目的の共有もなく組織的な強さもない。したがって政府の弾圧を前にすると短時間で抑え込まれてしまうもろさがある。

また2つの事例は権威主義が今後も不安定化していく可能性も示している。

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