「海の危機」に立ち向かう42歳海苔漁師の生き様 毎年100万円使って開く「海と海苔の勉強会」

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海苔を選別する機械(筆者撮影)

奉献乾海苔品評会では、宮城県石巻市から亘理町まで15の県漁協支所から経営体ごとに海苔が出品される。10枚1束の10束単位で海苔の色、つや、香り、重さなどの審査が行われ、毎年、優賞と準優賞の海苔が皇室に献上される伝統と格式のある品評会だ。

相澤さんは初めて自分の名前で出品したこのときに、いきなり準優賞に選ばれる。これは歴代最年少の快挙だったが、誰にも負けたくなかった相澤さんは「今度は優賞だ!」と燃え上がった。

市場が評価する海苔との決別

海苔のことで頭がいっぱいで、海苔に添い寝をするように夜も船上で睡眠をとるほどがむしゃらに腕を磨いていた2007年、あるパネルディスカッションで生産者代表として登壇した。100人を超える海苔漁師が集まったホールで、相澤さんと海苔の問屋が質疑応答をする時間があった。高い評価を得るようになり、自信満々だった相澤さんは、問屋を問いただした。

「なんでこんなにいいものを作ってるのに、安く買うんだ?」

その頃は、等級の高い海苔の卸価格も年々値下がりしていた。会場の海苔漁師全員の疑問、不満を問屋にぶつけたような気分で、「言ってやったぜ」と胸を張った。ところが問屋はなにも響いていない様子で、こう答えた。

「相澤くん、いいものを作っても意味ないよ、これからは。外国から、安くていいものがどんどん入ってくるし、もう違う仕事探したら?」

その頃の市場は、生産者より買い手の立場が強く、消費者からはとにかく安いものが求められるなかで、問屋もどれだけたくさんの量を安く出せるのかを重視していた。問屋の発言は、相澤さんの胸を深くえぐった。

「僕は、問屋に高く買われる海苔がいい海苔だと思っていたんです。品評会も問屋が評価する海苔が優賞するし。だから、問屋の基準でナンバーワンを作ると決めてそこにすべてをかけてきたのに、意味ないって言われたらね……」

相澤さんによると、問屋が好む海苔と食べておいしい海苔は必ずしも同一ではない。例えば、味。塩分が残っていたほうが甘みもうま味も感じるが、塩分があると海苔がしけりやすくなる。問屋はそれを嫌うため、塩分をまったく入れずに加工する。混(こん)や飛(とび)といった青のりが混ざった等級も、見た目から安い値がつけられた。問屋にとっては、見た目と扱いやすさが一番の評価ポイントなのだ。

「正直に言って、それまで味を第一に優先していなかった」という相澤さんは、問屋の一言をきっかけに、「安さ重視の市場を変えるために、なんとかしなきゃ!」と飛び込み営業を始めた。

最初に訪ねたのは、ある道の駅。そこで見事に門前払いをくらう。ロン毛に茶髪、サンダル姿で、敬語すら使えない自分を省みて、「これじゃ、ダメだ」と気づき、毎月3冊のビジネス書を読むようにした。ビジネスマナー、営業の仕方などを学び、パソコンを買って企画書を作った。

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